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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第13回   裸の王様の物語。2
 エレオノーラは裏口に回ります。侵入者がまだいるかどうか、確認するためです。正面の扉は施錠されたままでしたから、去るとしたら窓か、裏口です。
 もしかしたら、侵入者は、もう去っている可能性もありましたが、彼女の感覚が、まだ屋内に潜んでいることを告げました。
「……足跡が、侵入したときのものしかないわ……」
 裏口の周囲には、炭の粉が散らしてあり、それを見る限り、家の中から外へと向かう足跡はありませんでした。
 用心深く、裏口の戸を引きます。もちろん、開いていくのかどうか、わからないほど、かすかな動きです。そしてその隙間から、特製の鏡を差し入れます。これは、小指長四方にカットしたもので、伸縮式の長い棒がついています。この鏡で中の様子を映すのです。
 屋内に灯は点っていませんが、それでも窓の隙間などから光が漏れ入っているので、中に動く何者かがいれば、鏡に映るのです。
 エレオノーラは慎重に鏡の角度を変えながら、中の様子を確認します。どうやら、裏口のあるキッチンには、誰もいない様子。
 そっと戸を開け、中に入ると、続きの部屋へと向かいます。その時!
「零点だ、エレオノーラくん」
 いきなり背後から声がしました。咄嗟に振り返ると、そこには。
「……いつ、東洋の島国にいるShinobiに転職したの?」
 天井に人影が張り付いていました。
 エレオノーラの軽口には応えず、影が床に降ります。
「もし私が暗殺者(アサシン)だったら、君はもうこの世に、いない」
 いつも組織からのミッションを伝えてくる、若い男でした。
「エレオノーラくん、君にミッションを伝えよう」
 いつものように、事務的な口調で男が言いました。
「この国の王族は、不正をはたらいている可能性がある。その証拠を掴んで欲しい」
「聞いてもいいかい?」
 エレオノーラは言いました。男が少し眉根を動かしましたが、それを無視し、問います。
「王城にはシンデレラが入ったと聞いた。もしかして、同じミッションじゃないの? そして、彼女が死んだというのを、今日、聞いた。貴族の娘から聞いた話だが、ゴシップとは思われない。とすると、彼女は、ミッションに失敗して、王家に殺されたの?」
「……エレオノーラくん、君がそれを知る必要はない、……と、本来なら言うべきところだが、君は組織の最古参エージェントだ。さらに、私から見れば、『先輩』でもある。だから、そのことに敬意を表し、私の知っていることを話す」
 そして若者は目許を険しくします。
「彼女は、組織を裏切って、始末されたらしい」
 エレオノーラの全身を、戦慄が駆け巡ります。噂に、組織の中にエージェントたちを始末する「粛清者(エンフォーサー)」と呼ばれる者がいるらしい、と聞きます。粛清者は殺人術を徹底的に磨いており、狙った相手を必ず仕留めるとか。その存在は、単なる噂に過ぎませんが(そもそも狙われた相手が必ず死ぬのであれば、誰がその噂を伝えるのか、不明なのですが)、時折、消息が分からなくなるエージェントが存在するのは、確かでした。その名前を、彼女は「アンデルセン」と伝え聞いています。
 この若い男がその存在を示唆した、ということは、どうやら、粛清者は実在するようです。
「王城では、また新たにドレスなどを新調するらしい。王族御用達の仕立屋と入れ替わる手はずを整えておく。王城へと潜入したまえ」
 そして、業者の名前、及び周辺情報を言います。
「代わりの者が王城に入る理由は、君に任せる。なお、『本物』の仕立屋については、例によって、こちらの方で『処理』しておく。君がミッションを終え次第、死体が上がるようにしておくが、二日過ぎたら、君の任務が終わっていようといまいと、自動的に死体が王城の前に転がっていることになる」
 つまり、二日の間にミッションを終えろ、ということです。エレオノーラは頷きました。


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