「十年前のことだ。私は、王妃の護衛として、帯同していた。その時、王妃の持ち物からヴァニティーケースが落ちて、中のものが広がった。私しか見ていないが……」 もう一度、息を詰めて、おもむろに言いました。 「中にあったのは、旧帝国の紋章が入ったメダル、指輪などの装身具、そして、短剣だった」 騎士たちがざわめいています。 「あるいは、王国で接収していたものかも知れぬ。そう思った。だが、王妃のうろたえ方は尋常ではなかった。その時、私は思い出したのだ、『異民族』たちの調査をしているときに話を聞いた『異民族』の娘の顔を、そして、気がついたのだ、王妃と同じ顔であるということを! そして、私は辺境へと封じられたのだ!」 王妃の顔が一層、歪みました。そして、ジャックが言います。 「僕の方でも、調べました。といっても、ヨアキム様に紹介状を書いていただいて、エーケンダール伯にお願いしたのですが」 懐から、紙束を出します。 「『異民族』の生き残りは、人知れず、北方の荒れ地地帯に隔離され、強制的に労働をさせられています。その者たちに、王妃の人相書きを示して、確認してもらったんです。さらに、面白い話も聞けました。もし、ヨアキム様がお話を聞いたという娘と王妃が同一人物であるなら。……左の肩に、樹木の伐採時に負った傷があるはずです」 騎士たちが一斉に王妃を見ました。 沈黙を守っていた王妃でしたが。 ゆらり、と立ち上がり、王妃が言いました。 「ああ、そうさ。私は旧帝国の、皇帝の子孫なんだ!」 騎士たちが動揺したかのように、ザワついています。 「十五年前! 私たちは、穏やかに平和に暮らしていた! 王国に攻め入って、覇権を取り戻そう、なんて、これっぽっちも考えちゃあいなかった! なのに、国王がトチ狂って、私たちを滅ぼしにかかったのさ! 生き残った私は、復讐を誓い、あちこちで技術を学んだ! そうして、悪魔召喚の術さえ習得して、王妃を呪い殺し、後釜に座ったのさ!」 悪魔召喚、という言葉で、騎士たちのざわめきがピークに達します。ヨアキムも、少なからず、動揺しています。ですが、騎士の中の何人かは、「動揺」というより、とまどい、といった者もいました。まるで「不味いことを告白された」といった感じです。その者たちは、おそらく悪魔召喚のことを知っていて、一緒に参加していた者たちでしょう。 「ストランドバリ!」 と、階段を数段降り、ヨアキムを指さして、王妃は吠えました。 「お前、全てを知っていながら、なぜ、討伐なんぞという愚行を犯させた!? お前がちゃんと説得できていたら、あんな悲劇は起こらなかった!!」 その通りでした。自分がきちんと王を諫めていたら、あんなことは起こらなかったのです。ヨアキムは、両膝をつき、頭(こうべ)を垂れました。 「その通りだ。すまない。私は、いかなる報いでも受ける。だから、娘は……。娘のマルグリットには罪はないのだ! だから、どうか娘にだけは手を出さないで欲し……」 「いやだね」 と、王妃がいやらしい笑いを浮かべます。 「あの娘には、苦しんで苦しんで、苦しみの果てに死んでもらうよ? そうしないと、死んでいった二百人以上の民が、浮かばれないからねえ!」 復讐です。ヨアキムに出来るのは、懇願だけでした。 「頼む! いかなる罰でも、私が受ける! だから、娘には手を……!」 王妃が高笑いをします。
|
|