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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第129回   歪で歪んだ物語。15
「十年前のことだ。私は、王妃の護衛として、帯同していた。その時、王妃の持ち物からヴァニティーケースが落ちて、中のものが広がった。私しか見ていないが……」
 もう一度、息を詰めて、おもむろに言いました。
「中にあったのは、旧帝国の紋章が入ったメダル、指輪などの装身具、そして、短剣だった」
 騎士たちがざわめいています。
「あるいは、王国で接収していたものかも知れぬ。そう思った。だが、王妃のうろたえ方は尋常ではなかった。その時、私は思い出したのだ、『異民族』たちの調査をしているときに話を聞いた『異民族』の娘の顔を、そして、気がついたのだ、王妃と同じ顔であるということを! そして、私は辺境へと封じられたのだ!」
 王妃の顔が一層、歪みました。そして、ジャックが言います。
「僕の方でも、調べました。といっても、ヨアキム様に紹介状を書いていただいて、エーケンダール伯にお願いしたのですが」
 懐から、紙束を出します。
「『異民族』の生き残りは、人知れず、北方の荒れ地地帯に隔離され、強制的に労働をさせられています。その者たちに、王妃の人相書きを示して、確認してもらったんです。さらに、面白い話も聞けました。もし、ヨアキム様がお話を聞いたという娘と王妃が同一人物であるなら。……左の肩に、樹木の伐採時に負った傷があるはずです」
 騎士たちが一斉に王妃を見ました。
 沈黙を守っていた王妃でしたが。
 ゆらり、と立ち上がり、王妃が言いました。
「ああ、そうさ。私は旧帝国の、皇帝の子孫なんだ!」
 騎士たちが動揺したかのように、ザワついています。
「十五年前! 私たちは、穏やかに平和に暮らしていた! 王国に攻め入って、覇権を取り戻そう、なんて、これっぽっちも考えちゃあいなかった! なのに、国王がトチ狂って、私たちを滅ぼしにかかったのさ! 生き残った私は、復讐を誓い、あちこちで技術を学んだ! そうして、悪魔召喚の術さえ習得して、王妃を呪い殺し、後釜に座ったのさ!」
 悪魔召喚、という言葉で、騎士たちのざわめきがピークに達します。ヨアキムも、少なからず、動揺しています。ですが、騎士の中の何人かは、「動揺」というより、とまどい、といった者もいました。まるで「不味いことを告白された」といった感じです。その者たちは、おそらく悪魔召喚のことを知っていて、一緒に参加していた者たちでしょう。
「ストランドバリ!」
 と、階段を数段降り、ヨアキムを指さして、王妃は吠えました。
「お前、全てを知っていながら、なぜ、討伐なんぞという愚行を犯させた!? お前がちゃんと説得できていたら、あんな悲劇は起こらなかった!!」
 その通りでした。自分がきちんと王を諫めていたら、あんなことは起こらなかったのです。ヨアキムは、両膝をつき、頭(こうべ)を垂れました。
「その通りだ。すまない。私は、いかなる報いでも受ける。だから、娘は……。娘のマルグリットには罪はないのだ! だから、どうか娘にだけは手を出さないで欲し……」
「いやだね」
 と、王妃がいやらしい笑いを浮かべます。
「あの娘には、苦しんで苦しんで、苦しみの果てに死んでもらうよ? そうしないと、死んでいった二百人以上の民が、浮かばれないからねえ!」
 復讐です。ヨアキムに出来るのは、懇願だけでした。
「頼む! いかなる罰でも、私が受ける! だから、娘には手を……!」
 王妃が高笑いをします。


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