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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第124回   歪で歪んだ物語。10
 階下へ降りると、バトルアクスを手にした大男が一人。
「……マジか……」
 ガレキのバリケードが粉砕されていましたが、火薬の臭いがしません。つまり、この大男が、おそらくはその膂力(りょりょく)とアクスのみで、バリケードを破砕したということ。
 大男が、呵々大笑します。
「驚いているな、小僧? ワシの力をもってすれば、爆弾など使わずとも、造作もない事よ! ただ、ここを占拠した奴の裏をかくために、少しずつ破壊したから、時間がかかったがなあ!」
 そして、また大口を開けて笑います。
「バケモノか……」
 そう呟き、ヘンゼルはブラックホークの引き金を引きます。ですが、それはアクスの刃によって弾かれました。ならば、と、足もとを狙いますが、男はその方へアクスを動かし、弾を弾きます。
 そのようにして、大男は四ジャーマンエル(約一・六メートル)はありそうな、長柄で重そうなバトルアクスを、まさに己が手の如くに操って、銃弾を弾いていきます。
 どうやら、確実に銃弾を撃ち込むには、隙を作る必要がありそうです。ヘンゼルはその場から離脱しながら、スピードローダーで、弾丸をリロードします。用意しておいたスピードローダーは二つ。その内の一つを、早くも使うことになってしまいました。
 大男が、気合いもろとも、突進してきます。弾丸を撃ちながら、撤退しますが、例によって、男は器用にアクスで銃弾を弾きます。
「なんて反射神経だ!」
 毒づきながら、回廊を走り、大広間に入ります。そして、そこに用意しておいたモーゼルkar九八kをとります。男が、部屋に入るやいなや、ブッ放しました。ですが、男は、気合い一閃、アクスで弾丸をたたき落とします。たたき落とされたモーゼル弾は床で跳ね飛び、壁にめり込みました。
「何なんだよ、アイツ!」
 この反射速度は尋常ではありません。やはり本部常駐のエージェントは、格が違うようです。ふと、グレーテルのことが心配になりましたが、助けに入る余裕など、作れそうもなく。
 ヘンゼルは、近くの窓をモーゼルでたたき割り、回廊へと飛び出しました。モーゼルを投げ捨て、男にブラックホークの四四マグナム弾を連続でお見舞いしますが、ことごとく跳ね返されます。その挙動を見ていて、なんとなく「銃口を向けた瞬間に、弾道を見切っている。引き金を引くアクションと同時に、アクスを振るっている」ということに気づきましたが、フェイントを掛けるほどの技量は、ヘンゼルにはありません。
 階段を一気に駆け上がると、追ってきた男めがけて、残弾を撃ち尽くします。そして、二つ目のローダーでリロードし、銃弾を浴びせ続けました。しかし、狙う場所を変えているにも拘わらず、ことごとく弾かれます。それどころか、わざと跳弾を作っても、その弾丸すら弾いています。
「ムダだ、小僧! ワシは、跳弾の角度も、頭にたたき込んでおるからなあ!」
 さすがに跳弾の角度まで、見切ることが出来るとは思えません。偶然でしょう。ですが、ハッタリとわかっても、大笑する男の姿が、少しずつ、脅威となって来ました。
 ヘンゼルは、今度は手動で弾を込めながら、回廊を走って逃げます。一応、ジャックから聞いておいた「作戦」を実行するつもりですが、はたして、通用するか……。
 そして、銃弾で牽制しつつ、ある部屋に入ります。男がくぐもった笑い声を立てながら、部屋に入ってきました。
 ヘンゼルは引き金を引きます。そしてそれは。
 カチッ。
 乾いた小さな音しか、しませんでした。
 もう一度、引き金を引きます。
 カチッ。
 それを見た、大男が、すさまじい笑みになって、言いました。
「残弾数は、確認しとくもんだぜ、坊や?」
 そして、近づいてきます。この部屋には、窓は一つだけ。それも、外の様子を確認するためだけの小窓です。ヘンゼルの頭さえ、通りません。
 アクスを、これ見よがしに振り回しながら、大男が近づいてきました。


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