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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第123回   歪で歪んだ物語。9
 グレーテルの前の女は、薄く笑って言いました。
「ワタシねえ、今はメッセンジャーだけど、いずれは粛清者になって、教官になって、もっと上に上がるのが夢だったの。で、上に上がって、贅沢な生活したかったのよ。……わかる、あんたたち、その夢、潰したの。なんてコトしてくれてんのよ!!」
 一転、凄まじい表情で、グレーテルを睨みます。
「知らないわよ、アンタの都合なんて。ていうかさ、アンタらこそ、あたしたちの幸せブチ壊してくれちゃって、どうしてくれんの!? 返しなさいよ、幸せな日々!」
「あー、もー、ガキンチョなんか、相手にしてらんない! とっとと、逝きなさい!」
 言うが早いか、女がアダーガを手に迫ってきます。それをツヴァイハンダーでいなしたつもりでしたが。
「……え!?」
 盾の中央にある剣こそ捌けましたが、その根元にある盾は、斬撃を面で受け、刃を無効化しました。そればかりか、そのまま押し迫り、グレーテルの体勢を崩します。まずい、と思ったとき、女が一気にグレーテルを押し戻し、アダーガを閃かせて、スピアを向けてきました。
 なんとか避けると、スピアの切っ先が地面に刺さります。すると、女はすぐに抜き去り、そのまま、剣の切っ先を向けて突進して来ました。それを大剣で弾きましたが、今度は、その勢いを利用して身をひねり、アダーガのスピアの部分を向けてきます。それを弾き、グレーテルはバックステップで間合いを取りました。
 攻撃が防御に、防御が同時に攻撃になり、さらに盾の上下にスピアがついていることにより、攻撃が連続した物になる。
 思ったよりも厄介な武器です。
 どう攻めればいいか、と思っていたら、女がニヤリとして、アダーガを掲げ、下部のスピアを突き刺してきました。それをツヴァイハンダーで弾くと、女はクルリとアダーガを回転させて、今度は上部のスピアを向けてきます。それを内側から外側へ弾くと、その勢いを使って体を回転させ、盾の下部のスピアが向かってきました。今度は捌けず、穂先が右の脇腹に刺さってしまいました。
「グゥッ!」
 呻いて、なんとかスピアから逃れ、大剣を振るってガードしながら、間合いを取ります。
 幸い深手ではありませんが、それでも、痛みと出血があります。
 女がまたニヤリとして、シールド下部のスピアを向けて突進します。今度は、相手に回転を与えないことだけを考えて、咄嗟にスピアを地面にたたき落としましたが。
「しまった!」
 捌いてから気がつきました。支点は女の肩にあります。つまり、スピアを地面に落とすということは、女の肩が回転するということ。盾中央の剣がこちらを向くことを意味します。剣が向かってくるのを、スローモーションで捉え、考えるより先にのけぞりましたが、剣の切っ先が上着を袈裟懸けに切り裂きました。
 この状態で、肩口の切り傷だけですんだのは、奇跡です。
 地面を転がって、逃れると、女が笑って言いました。
「このアダーガ、特注品なの」
 そして、女がなにかの操作をすると、盾の中央、剣のある辺りから、アダーガが上下二つに分割されました。さらにそれを折りたたむと、まるで、バスタードソードの柄から、ショートスピアが繋がっているような形状になったのです。
 女が、アダーガを振りかぶり、気合いもろとも、剣の部分を振り下ろしました。それを大剣で受けましたが、アダーガの重さ、武器自体のリーチによる遠心力、そして、おそらく女の技量の三つが合わさった威力で、ツヴァイハンダーの刃が、鍔付近から、たたき折られてしまいました。
「さて。そろそろ、おしまいにしましょうか」
 凄惨な笑みを浮かべ、女が、二連になったスピアの穂先を向けました。


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