ジャックが作っておいたバトルフィールドで、臨戦態勢を整えたアンネの傍に、馬に乗ったジャックがやってきました。 「アンネ。あいつは」 頷き、アンネは答えました。 「粛清者(エンフォーサー)です。やっぱりあの包囲網を突破してきたんですね。ここで張っておいて正解でした」 五ファゾム(約九メートル)ほど先に、黒い甲冑姿の人影。その鎧兜は、体に密着したような、スリムなものでした。 「ここは私が引き受けます。ジャックは王都へ」 「……頼みます」 一瞬、アンネを案ずるような表情になりましたが、そう言って、ジャックが馬の腹を蹴ります。粛清者の隣を通り過ぎようとしたとき、粛清者が動きましたが。 「ヌ!?」 粛清者が身をひねります。そして、アンネを見ました。 「貴様、火炎使いか?」 粛清者に向け、炎の奔流を放ったのですが、かわされてしまいました。しかし、粛清者がこちらを見ている隙に、ジャックが遠くへ駆け去ります。 アンネはファイティングポーズをとります。 「私の父は、『アンデルセン』と呼ばれていました」 かすかに、ですが。 粛清者が動揺したように身を動かしたようでした。そして。 「私が組織に身を預けたとき、妹がいた。まだ、一歳だったが。そうか、お前が……」 そう言って、粛清者が兜を脱ぎ捨て、さらに、鎧も外しました。 「私には、父ほどの雷撃能(らいげきのう)は、ない。それを補うために、体にフィットする鎧を身につけ、雷撃を収束させている。だが、『放射』なら!」 その言葉と同時に、粛清者の周囲が青く光り、放電が起こります。そして、粛清者が右手を伸ばすと、その指先から何本もの青白い雷線が発生し、電気的爆発が起こりました。そして、まるでアンネを狙うかのように、人差し指だけを伸ばし、天に向けたあと、一気に振り下ろします! ですが。 「……?」 雷は、アンネには向かわず、周囲へと飛んで行きました。その先には、一ファゾム(約一・八メートル)ほどの木の杭があり、先端には、針金が刺してあります。 「……避雷針か!」 悔しげな表情になった粛清者は、しかし、すぐに表情を消し、突進してきました。直接、雷撃を撃ち込もうというのでしょう。向かってくる敵に、アンネは炎を放ちます。ですが、それをかわし、粛清者は迫ります。 「もらったッ!」 粛清者がアンネに、右の手刀を放ちます。それをアンネは左腕でガードしました。そして、そのまま、右手の拳を、粛清者の顔面に放ちます。それを、芸術的な体捌きでかわし、粛清者が、間合いを取りました。 「……? なぜ、……?」 アンネはニヤリとして答えました。
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