ジャックはトラップを仕掛け終え、王都へと帰りました。 ヘンゼルがランヒルドを見ます。 「なあ、あと、どのくらい、戦力が残ってるんだ?」 その言葉に、ランヒルドは記憶の糸をたぐります。 「エージェントの卵が五人程度、ガード……戦闘のプロが二人よ。ほかは、おそらく砲弾で爆死、ガレキで圧死、北砦経由で逃亡。それと、それ以外の奴は」 と、ランヒルドはアイソポスから託されたハルパーを見せます。ヘンゼルが頷きます。 「なるほど、腕は鈍ってないってか。ゲルダから探査結果を聞かされたときは、どうか、って思ったけどよ」 ヘンゼルの顔に浮かんでいるのは、苦笑いでしたが、それはランヒルドのことを茶化したものでないことは、理解できます。 ランヒルドは、辺りを見ながら言いました。 「とりあえず、だけど。北砦から通じている通路は、東西とも塞いであるから、来るとすれば、南砦正面から。でも……」 と、外を見て、ランヒルドは首を傾げました。自分の目算と、少し違うのです。 「どうした?」 と、ヘンゼルも、外を見て、目つきを険しくします。 「来たか……」 ヘンゼルのその呟きに頷きながらも、自分の考えていたことと違うと思い、ランヒルドは言いました。 「ええ。でも、一人、足りない」 グレーテルが、やはり厳しい目でランヒルドを見ました。 「足りない? どういうことかしら?」 「バトルアクスを使う、あの大男がいない」 ヘンゼルとグレーテルが、外の様子を見ます。 「昨日、砲弾を撃ち込んだけど、命中には至らずに、逃げられたわ。だから、まだ生きてるはず。……どうしたのかしら?」 「怖じ気づいて、隠れてるんじゃねえのか? まあ、とにかく」 と、ヘンゼルが銃を抜きます。 「グレーテル、決戦だ。生きて再会しようぜ」 その言葉に、グレーテルがむくれます。 「ヘンゼル、違うぅ! いつもは違うこと言ってるでしょ?」 ヘンゼルがちょっとだけ考えてから、余裕の笑みを浮かべて言い直しました。 「グレーテル、終わったら、いっぱい『いいこと』しようぜ?」 「うん」 グレーテルが笑顔で頷くと、二人は抱き合い、熱い口づけをかわしました。 なるほど、この兄妹は、そういう関係だったか。そう思いながら、ランヒルドは大砲に弾を込めます。
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