早朝、南砦に到着し、二階の、砲台のある回廊に入ったヘンゼルは、とりあえずランヒルドに文句を言いました。 「お前が、ちゃんと北砦も押さえておかねえから、そこの跳ね橋から逃走したヤツが、鳥、使って増援呼んじまったじゃねえか!」 ランヒルドは苦笑いで答えます。 「手紙に書いたでしょ、事情が変わったって」 「それはわかってるよ。だったら、砲弾で北砦、ぶっ壊しとけってーの!」 「『砦』だからねえ。なかなか頑丈で……。ああ、でも、手紙出したときには、もう、破壊できてたわよ?」 「それ以前に、脱出してたんだろ? んで、外へ出て、増援要請の手紙書いて、鳥、放って……」 ジャックが眼鏡のブリッジを押し上げ、笑顔で言いました。 「まあ、いいじゃないですか。王家から二個小隊・八十人ほど、お借りできたんですし、彼らが食い止めてくれてましたし」 「そうかしら?」 と、グレーテルが苦い顔で言いました。 「なぁんか、バッタバッタと、なぎ倒されてたけど?」 結局は、とジャックが言います。 「物量で押せば、なんとかなります」 その言葉に、ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせ、溜息をつきます。 そのやりとりが一段落したとき、ランヒルドが聞きました。 「それにしても、随分早かったわね? 確かにここの糧秣(りょうまつ)は、もって四日とは書いたけど」 ジャックが頷きます。 「バリエンの北にある要塞から、こちらに向けて、あらかじめ要所要所に馬を用意しておいてもらったんです。それを乗り継げば、馬車に揺られて五日、早馬を飛ばして三日のところを、一日に短縮できます。馬さえ走り続けられるなら、どうにでもなりますから」 それを聞いたランヒルドは、純粋に驚いているようです。それに対し、我がことのように思って、少しだけ誇らしい気持ちになりながら、ヘンゼルは聞きました。 「ところでさ、お前の足もとに転がってる、ソレ、なに?」 「ああ、これ?」 と、ランヒルドは足もとにある、子どもの頭ほどの大きさの皮袋の口を開きます。中には、金貨・銀貨・銅貨、さらには宝石類や、特定の都市だけで流通している「都市紙幣」などがありました。 「多分、南砦の連中のへそくり。なんかの折りに、ちょろまかしただろうヤツとか、くすねただろうヤツとか、それも含めて、いろいろ。せっかくだから、もらっておくわ。診療所の運営費に充てるの」 「……ちゃっかりしてやがんなあ……」 呆れていると、ジャックが言いました。 「じゃあ、僕は、いろいろと仕掛けてから、王都へ戻ります」 「おう、頼むぜ。南砦に侵入してくるヤツはいねえだろうが、万が一ってこともあるしな」
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