20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第116回   歪で歪んだ物語。2
「詳細は、それをお読みいただきますが。大雑把に申せば、ある国との交易において、便宜を図る代わりに、武器や人材など、様々なものを融通して欲しいという内容が書いてございます」
「……教皇庁の人間が、特定の商人との交易に、私的に便宜を図るなど、あってはならないことだ!」
 憤りを覚えました。神に仕える者として、教皇庁の財産を勝手に処分するだけでなく、武器の取引という、死の商人のようなことをするなど、背教の極みです。
「その書簡集を提供してくれた者は、申しておりました。『アレッサンドロ師父は、ある国をよくしたい、と言った。自分はそれを信じて、自己修練を積み、行動をした。だが、その商人から書簡類を取り戻せ、と命じられた。訳がわからなかったが、商人の元へと行き、調べていてわかった。アレッサンドロ師父は書簡類をネタに、商人から脅されていたので、取り戻したかっただけだった。さらに、もし脅し続けてくるようであれば、処分しろ、とも命じられた。自分はその命令に、疑問を持ち続け、ある事件をきっかけにして、書簡集を手に入れ、それを読み、師父がただ単に、己(おのれ)が権勢を……権力を手に入れて、それを恣(ほしいまま)にしたいだけだ、と知った。だから、アレッサンドロ師父を見限って、逃亡生活に入った』」
「ある事件、とは?」
 気になったので、聞いてみましたが、少女は沈黙するのみです。
 しばしおいて。
「もう一つ」
「……まだ、なにかあるのか?」
 今、知らされたことだけでも、充分なのに、この上、まだ何かあるのか、と思うと、頭の血管が切れそうになります。
「アレッサンドロ枢機卿には、もう一つ、背教の証拠が」
 そう言って、今度は握り拳二つ分ほどの布袋(ぬのぶくろ)を差し出しました。紐が通してあり、おそらく首から提げていたものと思われます。
 それを受け取り、口を開いて、中のモノを確認します。
「……これは……! 悪魔崇拝のメダルではないか!」
 思わず、卒倒しそうになりました。さらに、一緒にあったのは、何らかのリスト。どうやら、この悪魔崇拝に関して、特定の悪魔と「契約」し、関与した者の名前が記してあるようです。その中には、ある国の有力な司教であるアントーニオの名前や、その国の王都にある、大教区大司教の名さえありました。
「アレッサンドロ枢機卿の私物の中にございました。ルーペルトという人物との往復書簡に紛れており、説明等は一切ないのですが、おそらくなんらかの指示のようなものが、事前にあったのではなかったか、と推察しております」
「なんということか……! これは、教皇猊下にご報告して、一刻も早く処断せねば……。有り難う、感謝する! この証拠を提供してくれた礼をしたいが……」
 と、顔を上げると、少女の姿がありません。そして、背後の気配もいつの間にか、消えていました。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11263