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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第114回   みにくいアヒルの子の物語。10
 南砦にある大砲を、残らず大聖堂や宿舎、習練場に向け、ランヒルドは砲弾を放ちました。建物が、次々に爆破されていきます。おそらく、何が起きたか分からぬまま絶命した者がほとんどでしょう。生き残った者も、混乱の極みにあるに違いありません。本当なら、北砦もおさえる手はずを整えてから、行動開始をするつもりでしたが、ラプンツェルの居所を突き止められたのでは、待っていることは出来ません。
 ランヒルドは、あのゲルダという少女がやってきた夜のことを思い出していました。

「ジャックに、頼まれたんだ。『組織から逃げおおせていて、戦う力を持った者を捜してくれ』って」
「あなたは、この間の。……何を言ってるのか、よくわからないわ」
「とぼけなくてもいい。オレは人捜しにかけちゃあ、ちょっと特殊な技能(スキル)を持ってる。あんたのことについては、その詳しい素性はさっぱりわからない。だけど、あんたがただ者じゃないのは、わかる。頼む! 組織を潰すために、力を貸してくれ!」
 ゲルダが跪(ひざまず)き、頭を下げます。どうとぼけようかと思っていたら、奥の部屋から、ラプンツェルが現れました。
「話、聞こえてたわ。この間、聞こえてきた話から、なんとなく感じてたけど。あなた、ジャックの仲間なのよね?」
 ゲルダが顔を上げ、気づいたように言いました。
「あんたが、ラプンツェルだな?」
 頷き、ラプンツェルは言いました。
「ごめん、ランヒルド。もし可能だったら、でいいんだけど、手伝ってあげて欲しいの」
「ラプンツェル……」
「無理を言ってるのは、わかってる。でも、組織を潰さないと、わたしも、あなたも幸せには暮らせない」
 彼女の瞳は真剣です。でも、ランヒルドは、もう戦う気はないのです。すると。
「ランヒルド。わたし、ジャックに私の『本当の想い』、まだ、伝えてないの。ジャックが戦うのなら、わたしはそれを伝えたい。だから、そのためにも、あなたの協力が欲しいの!」
 そして、ラプンツェルも跪きます。
 徐々に決意が固まりつつありましたが、今の彼女には武器がありません。
 その時、別の部屋の扉が開いて、アイソポスが現れました。
「先生……!」
 驚いて、そちらを見ると、アイソポスは手に何かを持っています。それは、鎌のように内側に湾曲した剣でした。
「申し訳ありません。私も話を聞かせていただいていました」
 そして、剣をランヒルドに差し出します。
「私が昔、『ペルセウス』を名乗っていた頃、使っていた剣で、『ハルパー』といいます。昔はこれで、『悪』を葬っていました。理由はどうあれ、悪は抹殺せねばならない、純粋にそう信じていました。あるとき、『メデューサ』という渾名(あだな)の女をこの剣で屠(ほふ)ったとき、彼女は、男に利用された悲しい女だったということを知ったんです。それ以来、私は剣を封じ、医学を志しました。わかっています、医者になって人の命を救うことが、償いには、ならないことぐらい。しかし、私には、それしか思いつかなかった。……この剣の手入れは怠っていません。己を戒めるために、常に当時の『輝き』を保っているんです。君が戦うつもりなら、この剣を受け取ってください。この剣は、私の『後悔』と『懺悔(ざんげ)』、『罪』と、そして」
 アイソポスが静かに笑みを浮かべて言いました。
「『再生』の象徴なんです」
 その言葉に。
 しばし決意の時を置いて、ランヒルドは頷き、剣を受け取りました。

 翌朝、手紙を託した鳩を、ランヒルドは放ちました。その文面は、この言葉で始まっていました。
『我、南砦ヲ制圧セリ。我、南砦ヲ制圧セリ……』


(みにくいアヒルの子の物語。・了)


あとがき:参考までに。本部にいる人員の内訳。最高責任者:一人。補佐:二人。実務担当:四人。実務補佐:三人。技能教育監督者:一人。各技能教官:六人(潜入・探索、暗殺・殺人・格闘・武器……二人、偽造・分析技能、処世・作法、自然科学)。ガード(粛清者、メッセンジャー含む):七人。南北両砦担当者:それぞれ十人(交代制)。雑用:六人。エージェント候補生:十二人。いずれも本編展開時点。
 いわゆる「上」は、ガードの一部から、上位の存在です。また、各地にいるエージェントや調査員は、南北両砦担当者の上、ガードの下に位置します。食事の世話などは、南北両砦担当者(交代制)、雑用及びエージェント候補生の仕事。


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