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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第112回   みにくいアヒルの子の物語。8
 ルーペルトに資料を示しながら、ビルギッタは結論を言いました。
「おそらくジャックたちは、ヴォルフリンデの消息が途絶えた、バリエンの近くに潜伏しているものと思われますが、ラプンツェルは、いくつかの目撃情報、ジャックたちの行動の軌跡を勘案(かんあん)すると、エーケンダール領の近くに潜んでいるものと考えられます」
 ルーペルトが満足げに微笑みます。
「この短い時間で、よくまとめあげたね。すばらしい。これからも、期待しているよ」
 誇らしい思いで、ビルギッタは一礼します。
「ところで」
 と、真剣な声で、ルーペルトが言ったので、ビルギッタは顔を上げました。
「ヘンリケは、宿舎にいるのか?」
 その表情は、どこか緊張しているようです。
「ええ、おそらく。……どうかしたのですか?」
 苦々しい表情で、ルーペルトが例の手紙を机の上に置きました。端(はし)の方に焦げ茶色の、なにかのマークが描かれています。手紙を受け取ったときには、あんなものはなかったのに、と思っていたら、ルーペルトが苦々しげな声で言いました。
「紙や筆跡など、よくできているが、これは真っ赤なニセ物だ」
「……え?」
 ルーペルトが何を言ったのか、すぐには理解できません。
「それはどういう……?」
「アレッサンドロ卿は、インクにオレンジジュースを混ぜて、手紙をお書きになるのだ、偽造防止のために! この手紙、新しいにもかかわらず、インクのニオイしかしない! それに卿(きょう)は、やはり偽造防止のため、オレンジジュースを使って、手紙のどこかに『印(しるし)』を残される。火であぶれば、その『印』が浮かび上がるのだが、その『印』は『月』によって決まっている。この手紙の『印』は、先月や今月のものではない! おそらく、別の月の手紙を元にして、偽造したものだろう」
 なんということか! そんなあやしい人物を、自分は受け入れてしまったのだ。様子を見ていても、グズでノロマだから、呆れこそすれ何の疑念も抱かなかったが……。
「今すぐヘンリケを連れて来たまえ!」
 怒気を孕んだルーペルトの声に、
「かしこまりました!」
 と、少々、萎縮しながら、ビルギッタは頭を下げました。


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