ルーペルトに資料を示しながら、ビルギッタは結論を言いました。 「おそらくジャックたちは、ヴォルフリンデの消息が途絶えた、バリエンの近くに潜伏しているものと思われますが、ラプンツェルは、いくつかの目撃情報、ジャックたちの行動の軌跡を勘案(かんあん)すると、エーケンダール領の近くに潜んでいるものと考えられます」 ルーペルトが満足げに微笑みます。 「この短い時間で、よくまとめあげたね。すばらしい。これからも、期待しているよ」 誇らしい思いで、ビルギッタは一礼します。 「ところで」 と、真剣な声で、ルーペルトが言ったので、ビルギッタは顔を上げました。 「ヘンリケは、宿舎にいるのか?」 その表情は、どこか緊張しているようです。 「ええ、おそらく。……どうかしたのですか?」 苦々しい表情で、ルーペルトが例の手紙を机の上に置きました。端(はし)の方に焦げ茶色の、なにかのマークが描かれています。手紙を受け取ったときには、あんなものはなかったのに、と思っていたら、ルーペルトが苦々しげな声で言いました。 「紙や筆跡など、よくできているが、これは真っ赤なニセ物だ」 「……え?」 ルーペルトが何を言ったのか、すぐには理解できません。 「それはどういう……?」 「アレッサンドロ卿は、インクにオレンジジュースを混ぜて、手紙をお書きになるのだ、偽造防止のために! この手紙、新しいにもかかわらず、インクのニオイしかしない! それに卿(きょう)は、やはり偽造防止のため、オレンジジュースを使って、手紙のどこかに『印(しるし)』を残される。火であぶれば、その『印』が浮かび上がるのだが、その『印』は『月』によって決まっている。この手紙の『印』は、先月や今月のものではない! おそらく、別の月の手紙を元にして、偽造したものだろう」 なんということか! そんなあやしい人物を、自分は受け入れてしまったのだ。様子を見ていても、グズでノロマだから、呆れこそすれ何の疑念も抱かなかったが……。 「今すぐヘンリケを連れて来たまえ!」 怒気を孕んだルーペルトの声に、 「かしこまりました!」 と、少々、萎縮しながら、ビルギッタは頭を下げました。
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