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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第110回   みにくいアヒルの子の物語。6
 呆然となって、ヘンリケが言いました。
「……すごい、エステル……」
 その言葉を称賛ととらえたエステルは、誇らしい気持ちになって、笑顔を浮かべ、続けました。
「結論だけ言うと、多分、ラプンツェルはエーケンのどこかにいる可能性が高いと思うの」
 その時。
「それ、本当?」
 いきなり、声がしました。驚いて振り返ると、そこにいたのは、ビルギッタ。
 二度、驚きました。この驚きの意味は。
「ごめんなさい、ビルギッタ先輩! あたし、勝手に資料を見ちゃいました!!」
 ヘンリケが、「え? なに、それ?」と、きょとんとなります。
 バツが悪いものを感じながら、エステルはヘンリケに言いました。
「この間の夜、ビルギッタ先輩が図書室でなにかの資料を見て、唸ってたの。で、先輩は何か用事があったのか、資料をそのままにして、図書室を出て、あたし、ちょっと興味があったから、覗いたの。それで、面白そうだったから、それを読んでいたら、なんか、わかっちゃって。先輩は戻ってこないし、だから、あたし、朝までかけて資料を書き写して、あと、必要な資料を、大聖堂で閲覧して調べたの」
「……そう」
 それを聞いて、そう呟いたビルギッタの表情は、何か、微妙なものでした。ややおいて。
「ねえ、エステル。今晩、時間あるかしら?」
 ビルギッタの言葉に、エステルは首を傾げます。
 警戒させないようにするためか、ビルギッタは珍しく笑顔になって言いました。
「このことを、ルーペルト様にご報告するの。きっとあなたの立場は、いいものになるはずよ」
 思いがけぬ言葉に、エステルの胸に小さな、でも確かな喜びが生まれます。
「本当ですか!?」
「ええ」
 と、ビルギッタも微笑みます。
「じゃあ、エステル。今夜、あなたの部屋に迎えに行くから、正装しておくのよ?」
「はい!!」
 エステルの返答に、また笑顔で頷き、ビルギッタは去って行きました。
 まさか、このような形で認められることになるとは!
「エステル」
 と、ヘンリケがエステルを見ました。
「なあに、ヘンリケ?」
「……あなた、今、とてもいい笑顔になってる。瞳に星が輝いてるわよ」
 ヘンリケも嬉しそうに、笑顔になりました。
 胸の高鳴りを押さえるのが、精一杯のエステルでした。


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