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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第11回   シンデレラの物語。後編
 その翌日、お城から、王子と侍従長、侍従たちがやって来ました。なんでも、お城に残された、ガラスの靴を履いていた女性に王子が一目惚れしてしまったため、それを探しているとのことでした。
 二人の義姉が、口々に言いました。
「それでは、その靴がピッタリ履けたら、王子様はわたくしと結婚してくれるのね!?」
「何を言っているの、お姉様。私がピッタリに決まってるじゃない!」
 継母が言いました。
「何を言っているんだい、お前たち。さっさと靴をお履きよ!」
 しかし、侍従長が言いました。
「その必要はない。お前たちの足形をとればよい」
 そして、侍従が二人の足の裏に絵の具を塗りつけ、紙を踏ませました。その足形を見ていた侍従長は、黙って首を横に振ります。
 侍従の一人が言いました。
「この家に、もう娘はいないのか?」
 継母は、ちょっとだけ考えてから、シンデレラに出てくるように言いました。
 出てきたシンデレラを見た王子の目が見開かれました。どうやら、気づかれたようです。それを見て、侍従長が言いました。
「娘、お前の足形をとる!」
 シンデレラは言われるままに、絵の具を塗った足で紙を踏みました。その足形を見た侍従長が言いました。
「王子、間違いありません。昨夜、城内を嗅ぎ回っていた賊は、この娘です」
「何を、仰っているのか、あたしには、わかりません」
 シンデレラがとぼけると、侍従長が意地の悪そうな笑いを浮かべました。
「ガラスの靴を履いたのが、失敗だったな。ガラスには指紋が残りやすいのだ。足の指にも指紋がある。そして、足紋も残っている。お前のものと照合したが、この靴を履いていたのは、お前に間違いない!」
 証拠を突きつけられては、もうごまかしがききません。開き直り、シンデレラは言いました。
「ああ、確かに、ゆうべ、城の中で動き回っていたのはあたしさ! でもね、何の証拠もつかめなかったよ!」
 なぜ、ミッション失敗という「恥」を告白したのか、彼女自身にもわかりません。ヤケになっていたのか、それとも「結局、王族の不利益には、なっていない」と強調することで、保身を願ったのか。そこまでは、彼女にも分析できないのです。
 王子は、皮肉な笑みを浮かべて言いました。
「いいや、君は、とんでもない重要機密を盗んでいった」
「……何を言っているの、あなた?」
 シンデレラの言葉に、王子は、真面目な顔で言いました。
「君は確かに盗んでいった。……僕の心をね」
 シンデレラの胸に、不思議な感情が芽生えました。それは、純粋に「女の子」ゆえの感情の輝きだったかも知れません。

 こうして辞表を自ら握りつぶしたシンデレラは、王子と一緒に暮らすことになりました。

 そして数日後の朝。
 お城の裏庭で、冷たくなったシンデレラの御遺体が発見されました。死因はよくわかりませんが、侍医の所見では「心室細動が一番近い」とのことでした。

 組織は、シンデレラの裏切りを許さなかったのです。


(シンデレラの物語。・了)


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