その翌日、お城から、王子と侍従長、侍従たちがやって来ました。なんでも、お城に残された、ガラスの靴を履いていた女性に王子が一目惚れしてしまったため、それを探しているとのことでした。 二人の義姉が、口々に言いました。 「それでは、その靴がピッタリ履けたら、王子様はわたくしと結婚してくれるのね!?」 「何を言っているの、お姉様。私がピッタリに決まってるじゃない!」 継母が言いました。 「何を言っているんだい、お前たち。さっさと靴をお履きよ!」 しかし、侍従長が言いました。 「その必要はない。お前たちの足形をとればよい」 そして、侍従が二人の足の裏に絵の具を塗りつけ、紙を踏ませました。その足形を見ていた侍従長は、黙って首を横に振ります。 侍従の一人が言いました。 「この家に、もう娘はいないのか?」 継母は、ちょっとだけ考えてから、シンデレラに出てくるように言いました。 出てきたシンデレラを見た王子の目が見開かれました。どうやら、気づかれたようです。それを見て、侍従長が言いました。 「娘、お前の足形をとる!」 シンデレラは言われるままに、絵の具を塗った足で紙を踏みました。その足形を見た侍従長が言いました。 「王子、間違いありません。昨夜、城内を嗅ぎ回っていた賊は、この娘です」 「何を、仰っているのか、あたしには、わかりません」 シンデレラがとぼけると、侍従長が意地の悪そうな笑いを浮かべました。 「ガラスの靴を履いたのが、失敗だったな。ガラスには指紋が残りやすいのだ。足の指にも指紋がある。そして、足紋も残っている。お前のものと照合したが、この靴を履いていたのは、お前に間違いない!」 証拠を突きつけられては、もうごまかしがききません。開き直り、シンデレラは言いました。 「ああ、確かに、ゆうべ、城の中で動き回っていたのはあたしさ! でもね、何の証拠もつかめなかったよ!」 なぜ、ミッション失敗という「恥」を告白したのか、彼女自身にもわかりません。ヤケになっていたのか、それとも「結局、王族の不利益には、なっていない」と強調することで、保身を願ったのか。そこまでは、彼女にも分析できないのです。 王子は、皮肉な笑みを浮かべて言いました。 「いいや、君は、とんでもない重要機密を盗んでいった」 「……何を言っているの、あなた?」 シンデレラの言葉に、王子は、真面目な顔で言いました。 「君は確かに盗んでいった。……僕の心をね」 シンデレラの胸に、不思議な感情が芽生えました。それは、純粋に「女の子」ゆえの感情の輝きだったかも知れません。
こうして辞表を自ら握りつぶしたシンデレラは、王子と一緒に暮らすことになりました。
そして数日後の朝。 お城の裏庭で、冷たくなったシンデレラの御遺体が発見されました。死因はよくわかりませんが、侍医の所見では「心室細動が一番近い」とのことでした。
組織は、シンデレラの裏切りを許さなかったのです。
(シンデレラの物語。・了)
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