「だからね」 と、やや興奮した口調で、エステルはヘンリケに言いました。昼の軽めのスープを、宿舎一階の食堂でとりながら、なにかのレポートを見せているようです。 「この行動履歴と、目撃情報、さらにいくつかの傍証を組み合わせると、例の脱走者は、この国に舞い戻ってきている可能性が高いのよ!」 匙(スプーン)を口に含んだまま、ヘンリケは尋ねました。 「なんで、そういうことになるの?」 「例えばね? この森で見かけた人の話と、あの街の人が見かけたという情報を、時系列に整理すると、どういう風に移動したか、だいたい類推できるの。でも、普通に移動したにしては、日数がかかりすぎてる。となると、どこかで長く滞在したことになるけど、その間の目撃例がない。ということは、おそらく近くの森の奥深くで、長期滞在したと考えられる。それを前提にして、移動ルートを検索し直すと、奇妙なことが分かるの」 「奇妙なこと?」 興味津々といった表情のヘンリケを見ていると、エステルも興が乗ってきます。 「うん。おそらく脱走者は最低、一人は、道連れがいる。そうでないと、説明がつかない」 「説明がつかない? なんで」 「例えば、この町とこの都市の間にある、この林。資料によると、食料になるような草は生えていないし、そんな動物もいないの。となると、この町か、都市で食料を調達しているはずだけど、そんな目撃情報がない。あるいは変装して、都市で雑踏に紛れて買い物をしている可能性もあるけど、それなら、そもそもほかの場所で、目撃情報があるはずがない。それに、目撃情報では、脱走者は病身らしいから、長時間、連続した移動に耐えられないと考えられる。だから、その点を考えて、脱走者の目撃情報があった頃と、同じ時期のその他の人々の移動状況とを、照らし合わせてみると、各地で共通する人物が浮かんできたの」 と、確信を深め、エステルは言いました。 「脱走者……ラプンツェルは、おそらくお尋ね者のジャック、ヘンゼル、グレーテルと一緒にいる!」
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