「どうして司教の交替で、修道院が解散になるの? 教区教会と修道院は、直接の関係は、ないはずだけど?」 肩をすくめ、エステルは答えました。 「さあ? さっきも言ったけど、あたしには、よくわからない。ただ、そこの院長は、もとはある都市の教区教会の司教だった人で、ぶっちゃけ俗物だったわ。交替になる前の司教とは、なんだか妙な繋がりがあったみたい。それが解散の理由なのかどうかは、わからないけど」 そして、再び、床を拭き始めました。 「で、行く先なくしてたら、ここに呼ばれたの。ここって、アレッサンドロ枢機卿がトップで、あたしがいた修道院の院長が、アレッサンドロ枢機卿の知り合いだか、なんだか、ってことで、もと院長の紹介で、ここに来ることが出来たの。正直、なんであたしみたいなノロマが、こんなところに連れてこられたのか、わからないんだけどね」 そうなんだ、と言って、ヘンリケも身の上話をしました。 ヘンリケの話を聞き、エステルは言いました。 「あなた、修道院で事務やってたのね」 「事務っていっても、名前だけ。実質的に図書室の整理係だったわ。そのお仕事もうまくできなくて、お払い箱になったんだけど。でも、なぜか、ここに呼ばれたの」 ヘンリケの言葉に、エステルが笑顔になりました。 「あたしたち、よく似てるのね。……ねえ、白鳥の雛(ひな)って、見たことある?」 いきなり、訳のわからない話を始めたエステルに、首を傾げながら、ヘンリケは聞き返しました。 「なあに、いきなり?」 頷いて、エステルは答えます。 「白鳥の雛ってね、灰色をしてるの。子どもの頃は地味なのに、やがて華麗な白鳥になる。あたし、きっと白鳥になるわ!」 そう言ったエステルの瞳には、星が光り輝いています。 「白鳥、って、いったい何のこと?」 エステルの言うことが意味不明だったので、ヘンリケは聞いてみました。 「うふふ」 と笑い、「内緒。お昼に教えてあげる」とエステルはウィンクをしました。
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