玉座から、王妃が言いました。 「確かにその首、先日、王城に忍び込み、衛兵を三人も殺していった女だ。言った通りの腕前だね。あんたらが、本物のジャック、ヘンゼル、グレーテルに間違いないようだねえ?」 ジャックは頭を下げながら言いました。 「確かに、承ったことを遂行いたしました。信じていただけましたか?」 浮かべた笑みに、王妃は満足げな笑みを浮かべながら、言いました。 「では、これからも、我が王家に仇なす者を始末してくれるんだね?」 「はい。つきましては、私が望むときに、こちらで兵站(へいたん)をご用意いただければ」 「いいよいいよ、好きなだけ、お使い。その代わり、その組織とやら、潰しておくれ。これで、ハーメルンの件も各地での騒ぎも、チャラさ」 一礼し、ジャックたちは謁見(えっけん)の間を退出しました。
控えの間にはアンネ、ジェニファー、ゲルダ、カイが待っていました。今夜は、これからパーティーです。一応、「城内に侵入した不埒者を成敗したお祝い」という名目になっていますが、何もなくても、パーティーは催されるのです。要は、徴税(ちょうぜい)の際に民に申し訳程度に触れ回るための、口実なのですから。 パーティー会場で適当に人をあしらっていたジャックですが、ふと、あることが気になりました。 「どうした、ジャック?」 鳥の足を片手に、もう片方の手に、魚料理の皿を持ち、口にパイをくわえたヘンゼルが近くに来ていました。 「いえ。何人かの貴族の姿が見えないのです。それに、いつの間にか、王妃の姿も消えている」 「……便所なんじゃねえの?」 「気になります。ちょっと捜してきます」 「放っとけよ」 そう言うヘンゼルにジャックは言いました。 「忘れたんですか、彼らは『悪魔崇拝者(サタニスト)』ですよ? こういう乱痴気騒ぎは精神を異常に昂揚させ、人を狂った道へと、容易に引きずり込みます」 パイをもぐもぐと咀嚼(そしゃく)しながら、ヘンゼルは、頷きました。 「悪魔がどうのっていうのには、正直、興味はねえが、弱みを握れるんなら、それもいいかもな。少しでも優位に立っときたいし」 そして、ジャックとヘンゼルはパーティー会場を抜け出すことにしました。傍にいたジェニファーが、城内の官吏(かんり)たちに何かを尋ねているのが、耳に入りました。人を捜しているようで、「アルフリーダ」とか「ヨセフィン」とかいう単語が聞こえました。
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