「それにしても。随分、準備万端だったわね」 苦い思いで言ったヴォルフリンデの問いに、ゲルダが答えました。 「ジャックたちは、あっちこっちでお尋ね者になってる。その上、オレたちまで引き連れてるから、目立ってて足取りを追いやすい。いつか組織の奴が来るだろうってことで、網と罠を張ってたんだ。そしたら、のこのこと、お前が現れた。誰が来たかは、すぐにわかる。カイのデータベースは、半端(ハンパ)ないからな」 「つまり、最初っから、私はエサに引き寄せられた虫だったわけね」 自虐の笑みが漏れてきます。 眼鏡をかけた青年……ジャックが言いました。 「こうなっては、あなたも組織には戻れません。それに、あなたが今の境遇になってしまったのは、おそらくは組織のせい。忠誠を誓う必要はありません。僕たちと一緒に来てもらえたら…………」 「ハッ! バカじゃないの!?」 嗤いながらそう言うと、ジャックが怪訝な顔をしました。 なので、半分、やけっぱちの嘲笑を浮かべながら、ヴォルフリンデは言いました。 「あのね、私、満足してるの! 私の家族はロクなものじゃなかった! 酒浸りで暴力を振るう父、男を作っては、しょっちゅう、家を空けてた母、幼い私のことを女として弄(もてあそ)んでた二人の兄! その中で私は、いつか家を出てやろうと、『逃げ足』を鍛えたわ! そんな時、夜盗が押し入って、家族を殺し、しばらくして、組織に拾われた! 私はむしろ感謝してるの! それに、たくさんミッションをこなせば『上』に上がって、いい暮らしが出来るもの! あんたたちについて行くなんて、まっぴらゴメンだわ!」 そして、一同を睨んでやります。 カイが言いました。 「私の言った通りでしょ、ジャック。この女は、必要があろうがなかろうが、人を殺してきてるの。組織の中でしか生きられない女なのよ」 そのあとを、ヘンゼルが続けます。 「ジャック。お前は、『仲間は多い方がいい』って言ったけど、こいつは『ダメ』だ。『最近、王城を探っていたという、組織の人間を捕らえてきたから、情報源にする』っていう口実で、王家に取り入る、って、お前は言ったが」 そして、ブラックホークを抜きます。 「『組織のヤツの首を持ってきました』の方が、説得力があるぜ」 ヘンゼルが引き金を引くのが見えました。
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