20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第101回   狼と七匹の子山羊の物語。10
「それにしても。随分、準備万端だったわね」
 苦い思いで言ったヴォルフリンデの問いに、ゲルダが答えました。
「ジャックたちは、あっちこっちでお尋ね者になってる。その上、オレたちまで引き連れてるから、目立ってて足取りを追いやすい。いつか組織の奴が来るだろうってことで、網と罠を張ってたんだ。そしたら、のこのこと、お前が現れた。誰が来たかは、すぐにわかる。カイのデータベースは、半端(ハンパ)ないからな」
「つまり、最初っから、私はエサに引き寄せられた虫だったわけね」
 自虐の笑みが漏れてきます。
 眼鏡をかけた青年……ジャックが言いました。
「こうなっては、あなたも組織には戻れません。それに、あなたが今の境遇になってしまったのは、おそらくは組織のせい。忠誠を誓う必要はありません。僕たちと一緒に来てもらえたら…………」
「ハッ! バカじゃないの!?」
 嗤いながらそう言うと、ジャックが怪訝な顔をしました。
 なので、半分、やけっぱちの嘲笑を浮かべながら、ヴォルフリンデは言いました。
「あのね、私、満足してるの! 私の家族はロクなものじゃなかった! 酒浸りで暴力を振るう父、男を作っては、しょっちゅう、家を空けてた母、幼い私のことを女として弄(もてあそ)んでた二人の兄! その中で私は、いつか家を出てやろうと、『逃げ足』を鍛えたわ! そんな時、夜盗が押し入って、家族を殺し、しばらくして、組織に拾われた! 私はむしろ感謝してるの! それに、たくさんミッションをこなせば『上』に上がって、いい暮らしが出来るもの! あんたたちについて行くなんて、まっぴらゴメンだわ!」
 そして、一同を睨んでやります。
 カイが言いました。
「私の言った通りでしょ、ジャック。この女は、必要があろうがなかろうが、人を殺してきてるの。組織の中でしか生きられない女なのよ」
 そのあとを、ヘンゼルが続けます。
「ジャック。お前は、『仲間は多い方がいい』って言ったけど、こいつは『ダメ』だ。『最近、王城を探っていたという、組織の人間を捕らえてきたから、情報源にする』っていう口実で、王家に取り入る、って、お前は言ったが」
 そして、ブラックホークを抜きます。
「『組織のヤツの首を持ってきました』の方が、説得力があるぜ」
 ヘンゼルが引き金を引くのが見えました。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11338