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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第100回   狼と七匹の子山羊の物語。9
 そこは、人が四〜五人ほど、横に並んで通れそうな洞窟。どうやら、もともと崖に、うがたれていたもののようです。やはり、この建物は、この崖の洞窟を利用して作られた修行場だったのでしょう。
 壁には松明(たいまつ)がしつらえてあり、一つずつ火を灯しながら、カイは歩を進めます。カーブを二つ曲がり、松明を三つほど灯したところで、十ジャーマンエル(約四メートル)ほど奥に扉が見えました。
「あなたが、開けなさい」
 ダガーを背に突き立てる仕草をすると、カイが扉のノッカーに手をかけます。そして、それを開けたとき!
 まるで糸が風を切るような音がして、何かが目の前を飛んで行きました。それが手榴弾のピンに似ていると思った瞬間、扉の奥から、強烈な圧力と熱風がヴォルフリンデを襲いました。
 噴き飛ばされこそしませんでしたが、その熱と衝撃で体の自由が奪われます。その次の瞬間、こちらに駆けてくる足音がして、その足音が背後に止まったと思ったら、いきなり膝の裏が蹴られました。衝撃で膝をつくと、両腕がねじり上げられました。そのまま腕に縄が、両の足首には、何か固い輪がはめられてしまいました。
 扉の影にいたカイが、見下ろすようにヴォルフリンデに言いました。
「観念しなさい、ヴォルフリンデ」
 憎しみの念を乗せ、カイを睨みます。そして、振り返り、彼女に縛(いまし)めた人物を見ると。
「……え? な、なんで!?」
 そこにいたのは、胸に赤い血の花を咲かせたグレーテルと、首から血を流したマリー。そして、その背後から眼鏡をかけた長身の青年、ヴォルフリンデと同い年ぐらいの少年、さらに、ジェニファーとゲルダが現れました。
 ジェニファーがニヤつきながら、ヴォルフリンデが落としたダガーを拾って言いました。
「これ、私が作ったンス。中にバネが入ってて、切っ先を押すと」
 言いながら切っ先を押すと、刃が引っ込みました。
「こんな風になるンス。で、柄の中には」
 そう言って、柄の側面を開けると、そこから何かの残骸(ざんがい)が落ちました。
「獣の血を入れた袋が仕込んであって、刃が引っ込むと袋が破れて、次に刃が出て来たとき、その刃が血塗(ちまみ)れになってるっていう寸法ッス」
「あなたがあたしの胸を刺して、ダガーを抜いたとき、あたしは、すぐに血袋を隠し持った左手を当てて、その袋を握りつぶしたの」
 グレーテルの言葉に、
「そう」
 と、諦めの心境でヴォルフリンデは言いました。
「さすがは『指姫』ジェニファーね。細工物をやらせたら、天下一品だわ。でも、待って?」
 と、ヴォルフリンデはマリーを見ました。
「この娘は、確かに刃で首を切ったはずよ?」
 やはり、ジェニファーが誇らしげな声で言うのが、背後から聞こえました。
「このダガー、柄から人差し指ほどはちゃんとした刃(は)になってて、それこそ、リンゴの皮を剥くことも出来るけど、その先は刃(は)が落としてあって、ナマクラなんス。針金(ハリガネ)で腕を撫でるのと、おんなじッスよ」
「あなたのダガーが通り過ぎた後、私も手に隠し持っていた血袋を握りつぶしたんです。ちなみに、ダガーの刃(は)のない部分が私に当たるように、あなたの動きを少し制御(コントロール)させていただきました」
 後半、何を言っているのか理解できませんでしたが。
 そうだったのか。カイがリンゴの皮を剥いていたから、先入観で普通の刃(やいば)だと思い込まされていた。


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