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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第10回   シンデレラの物語。前編
 昔々あるところに、「灰かぶり」と呼ばれる娘が、ある家に住んでいました。彼女の名前はシンデレラ。しかし、これが本当の名前かどうかは、よくわかりません。「シンデレラ」とは、「灰かぶり」という意味の、あだ名のようなものだからです。
 彼女は、理由はわかりませんが、意地悪な継母と、血の繋がらない、やはり意地悪な二人の姉と一緒に暮らしていました。しかし、その待遇は下女以下でした。それでも彼女は、一所懸命に働いていました。

 ある日、お城で王子様の結婚相手を決めるパーティーが催されることになり、二人の義姉も舞い上がっていました。
「わたくしが選ばれたら、どうしましょう!?」
「何を言っているの、お姉様。私が選ばれるに決まってるわ!」
「何を言っているんだい、お前たち。二人とも選ばれるに決まってるじゃないか」
 こんな感じで、浮かれていたのです。
 内心、シンデレラも行きたいと思っていたのですが、着ていくドレスもないし、なにより、家事があるので、そんな時間はありません。
 そして、パーティーの日の夕刻になりました。そそくさと出かける三人を見送り、シンデレラは、縫い物や他の家事に取りかかっていました。
 その時、家の前にあるハシバミの木のところで、口笛が聞こえました。
 出てみると、そこにいたのは、若い男。もちろん、シンデレラは、その男を知っています。
 男は言いました。
「おはよう、シンデレラくん。さっそくだが、ミッションを伝えよう。今夜、お城でパーティーが開かれる。そのどさくさに紛れ、王族の秘密を探り出すのだ。彼らは不正をはたらいている可能性がある。……例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで」
 そう言って、男は大きなトランクを差し出しました。
「私は、ここには来なかったし、君も誰にも会わなかった」
 そう言い残し、男は去って行きました。
 トランクを開けると、そこには豪華なドレス、アクセサリー、そしてガラスの靴が一足、入っていました。
 その衣装を身にまとい、家の外に出ると、二頭立ての馬車が待っていました。
「あんたが、コードネーム『シンデレラ』かい? あっしは、あんたをお城まで連れて行き、ここまで連れて帰るように言われてる。……『それ以上』じゃあねえから、そのつもりでいて、おくんなさい」
 老年の御者の言葉に頷くと、彼女は、馬車に乗り込みました。

 お城に着くと、パーティーの真っ最中でした。シンデレラは適当に王子のダンスにつきあったりしながら、王族のプライベートルームや、書庫、大臣たちの執務室を探りました。しかし、それらしいブツがつかめません。
 そうこうするうちに、シンデレラの行動を見とがめるものが現れ始めました。証拠がつかめなかったのは残念ですが、ここまでのようです。シンデレラは走って逃げました。王子が、彼女を呼び止めましたが、それに構っている余裕はありません。しかし、なんてことでしょう。靴が片方、脱げてしまったのです。やはりガラス製、伸縮素材ではないので、走るとかいったアクティブな動きには対応できないのです。
 証拠もつかめず、靴も片方、残してしまった。ミッション失敗だけならまだしも、支給品までなくしてしまったのです。家に帰り着いてから、シンデレラは辞表をしたためました。


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