「クックックックッ」 さっきからずっと笑われている。
「バーナード、いい加減にして下さい」
「ウクッ、すまないヒューイ。君の……プーッ」
『駄目だ。そんなに降りた時の俺の顔が酷かったって言うのかよ。確かに、叫んだし舌を噛んで涙も流れて、ちょっぴり鼻も出てたかもしれないけどさあ』
町に来るまであの巨大なオルトロスに乗って来たのだから、誰だって自分と同じになると思うヒューイ。
「ああ、日があんなに高くなってるよ。早く買い出ししてしまおうか」
『なんだよ。ずっと笑い転げていたくせに』
ヒューイは、ちょっと拗ねてしまった。
町は、4本の柱に支えられた有名な神殿のような造りの建物が要所要所に建てられている最中で、中々の活気があった。
「どう? 映画のセットみたいでしょう?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「人以外が結構存在しているようですが……」
「そうだね。伝説の生き物が普通に存在しているね」
「神がいるって本当ですか?」
「会った事はないけど、本当だよ。君の事だって……」
「?」
言い淀んだバーナードは、俺の視線を受けても首を振っただけだった。
『話せない内容なのかなあ』
お店はほとんどが露店で、何処から何処までがこのお店でなどと区別がつかない程入り交じっている。
そんな中、慣れているバーナードは、必要な物をどんどん買い出して行く。
「おやまあ、あんたの息子かい?」
顔馴染みの老婆に声を掛けられていた。
「ちょっと待って下さい。私はまだ28才ですよ。こんな大きい子供なんている訳ないでしょう?」
「まあ、そうかい。案外奥手なんだねぇ」
「もう、ウィラーと一緒にしないで下さいよ」
「ウィラーは甲斐性がある男だからねぇ。イヒヒヒヒ」
『溶け込んでいるなあ』
ヒューイは商店街を思い出してボーッと空を見上げていた。
すると。
信じられない物を目撃してしまい、バーナードの腕を叩いて知らせたのだ。
「どうかしたかい?」
「あれ! あれは何ですか? もしかして神が乗っているんですか?」
上空には、古代の戦車が翼のある紅い水牛のような物に引かれて走っていたのである。
市場の人達もそれに気付いてからは、音が消えたように静かになってしまった。
バーナードは素早く耳打ちする。
「騒がないで。あれが、私達の飼い主ですよ」
『飼い主って……』
もう、訳がわからないヒューイは、兎に角バーナードの言う通り大人しくしていたのだ。
通り過ぎて行ってくれる事を願っていたみんなの気持ちとは違い、それは、どうした訳かこの密集した市場に降りて来てしまったのだ。
悲鳴があろうとお構い無しに堂々と乗り物ごと降りてきたものだから、幾つかの売り物は駄目になり、逃げ遅れた何人かが犠牲になったようだ。
叫びだしたいのを堪えたヒューイ。
と言うのも、助けだそうと身体が勝手に動いたところを、バーナードの強い力で腕を掴まれていたからだ。
震えるほどの憤怒に耐えて、『バーナードにこれ以上迷惑を掛けてはいけない』そう言い訳する事にしたヒューイだった。
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