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作品名:海の民の伝記 作者:雷花 羽畄砂

第5回   洞窟
 「Oh!」

 吹き抜けのような広い洞には、砂地があって其処から先は碧海だった。

 「あ、あれは何です?」

 プカプカ浮かぶ小さな潜水艦が停泊している。

 「あれね。あれは、私達SSCが乗る潜水艇だよ」

 「潜水艇? 皆さんが乗るにしては、小さくないですか?」

 「メンバーは今から紹介するけど、隊長と君を入れても五人しかいないから大丈夫なんだよ」

 「海底探査でも行うんですか?」

 「説明は、明日隊長から聴いてくれないかな。私ではどう話せばいいのかわからないからね」

 安心させようと笑顔をつくるバーナード。

 『極秘と言っていたから、どこまで俺に話せばいいのかわからないって事か』

 ヒューイは、利用されないように注意しなければと身構えた。

 「ここから地上に出る道はないからね」

 「えっ?」

 「ああ、誤解しないで。監禁とかではなくて、単に機密を保持する為だから」

 「でも、どうやってここから地上に出るんですか?」

 「ああ、それはね」

 今まで見えなかったが、バーナードはケープを着けていた。

 「これをこうすると……」

 画素の光りのようなもので覆われた後、あの石板で見た蜩の格好に変わっていた!

 「なに?」

 すぐに解除して戻ったバーナードは、説明を始める。

 「君も着けている『ソットケープ』は、琥珀のブローチに手を翳すと『セケイダヴィステ』に変わるんだ。そうしてから、ほら、見えるかな? あそこに空いている空気穴から外に出る事が出来るんだよ」

 「って事は、空を飛べるの?」

 「勿論。他にも色々出来るし、君みたいに個人的に能力を授かるから、やはり、説明は隊長から聴いた方がいいと思う」

 「今から、地上の様子を見に行ったら……駄目……ですよね?」

 「ここから出るには、許可がいるからね。それに……『シーモンク』のような異形がウジャウジャいるから、覚悟した方がいいよ」

 「異形……?」

 「余計に混乱させてしまっているよね。中を案内しようと思っただけなんだけど」

 真面目なバーナードは、頭を抱えてしまった。

 「いえ、案内して下さい。でないと、夜中に漏らしてしまうかもしれないでしょう?」

 「!」

 「そうだよね。やっぱり困ってしまうよね?」

 間違ってはいなかったと安心してもらえたみたい。

 『バーナードは、いい人だ』

 俺の心にそう刻まれた。

 「ここからすぐが、君の知りたかった場所だよ」

 砂地の広場から中に入った横にソレは存在した。

 「これは……」

 「そう。ただの穴だよ」

 「ロロロ、ロールは?」

 バーナードにニンマリされて、視線の先を辿れば……そこには、桶が置いてあった。

 「嫌なら、海綿を買って来るといいよ。勿論、使い捨てじゃないからね」

 「バーナードはどうしているの?」

 必死の形相で訊くヒューイに、意地悪が過ぎたかなと、奥からツルツルした葉が沢山入った袋を持ってきて見せてやった。

 「みんな、これを使って流しているよ。でも、君も流水が使えると思うけどね」

 少し安心したヒューイは訊いた。

 「流水って何ですか?」

 「さっき話した能力だよ」

 「俺にもありますか?」

 「まあ、ここのメンバー全員持っているから多分……」

 『くうっ。なかったら大変じゃないか。なんだか眠れない夜になりそうだよ』

 呼ばれて来た事より、状況把握の方に気を取られるリューイだった。


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