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作品名:海の民の伝記 作者:雷花 羽畄砂

第4回   異界
 「どうだ、目覚めたのか?」

 「まだですよ」

 「英雄様ってのは、随分と綺麗な肌をしているねぇ。スベスベ」

 「ウィラー、ふざけてないで皆に食事を配れ」

 「ラジャー」

 ウィラーと呼ばれた男は、ツン髪をわざとらしく上げてから部屋を出た。

 「バーナード、まだ起きる気配はないのか?」

 キツい眼差しもご褒美になるくらい、美しい女性上官のバクウスが尋ねたのだ。

 「呼吸は安定していますから、心配されずとも自然に起きますよ」

 真面目で温和なバーナードは、丁寧に返事をした。


 「うっ、ゲホゲホゲホ……」

 「目覚めましたよ。海水でも飲んだのでしょうか?」

 「さあな」

 バーナードの生真面目な質問に、バクウス隊長はどうでもよさそうだ。

 「ここは……ハリケーンは? ああ! 伝説のシーモンクが」

 「だいぶ混乱しているな」

 ヒューイ(竜斗)の様子を冷静に観察する隊長を避けて、バーナードは水を差しだした。

 「大丈夫? お水をどうぞ」


 しばらく二人の顔を見てから、「Thanks」と言って水を受け取った。

 「お前達の同胞だったか」

 「そのようですね」

 水を飲み干したヒューイは、ようやくここが何処なのかを質問したのだ。

 岩肌のままの壁がお洒落な、洞穴のような部屋に寝かされていたヒューイ。

 「ここは、見ての通り洞窟だ。我々は、極秘部隊の『SSC』だ」

 「洞窟……極秘部隊」

 「説明は、また明日にしよう。今日はゆっくりするといい」

 ハリウッド女優のような女性は、それだけ言うと出て行ってしまった。

 「今のが、『SSC』のバクウス隊長。私は、バーナードだ。宜しくね」

 「リューイです。俺は、遭難して助けていただいたんでしょうか?」

 「わかるよ。私も最初は受け入れられなかったからね」

 握手をした手を軽く叩かれた。

 「はっ?」

 「君は、英雄としてこの部隊に誘致されたんですよ」

 「エイユウ?」

 「そうです。私達は、遭難して救出されましたが、君は、英雄としてここに呼ばれたんですよ」

 酷く同情したような顔をされている?

 「うーん、俺は遭難していない?」

 「そうです。呼ばれただけです」

 「呼ばれたって誰にですか?」

 「色々と納得出来ないのに、ゆっくりするなんて無理だよね」

 諦めたようにため息をついてから、「come with」と言ったのだ。

 『ここは合衆国なのか?』

 俺は、ベッドから立ち上がると、何も身に付け着ていないかったので焦ってしまった。

 「そうだった」

 バーナードがベッドに畳んであった布を器用に巻いて、革ベルトで止めてくれたのだ。

 それから、紐のようなサンダルを履かされた。

 「よしっ! 取り敢えずこれで我慢して」

 古代人のような格好をさせられたが、それより今は、状況把握が先だとバーナードの後に続いたのだった。 


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