戦車は1人用の物で、柵と革ベルト(固定用)に両足を乗せる台があり、それが紅牛(マルキー)の翼の下にある軟骨(突起)に繋がれていて、それを引っ張ったりして操作するようだ。
『これは体幹がしっかりしていないと、まったく操縦できないぞ』
ふわりと浮いてしまえば、大きな翼で前方の視界は悪いし、何より周囲に何も無いので攻撃を受けやすい上に操作上、後ろががら空きなのだ。
「ただ、上空を走らせるだけなら簡単だな」
ガドナは、器用にも左右に旋回を繰り返し着地もスムーズに終えた。
「俺は、脚力も体幹もないから、このままでは乗りこなせないかもしれない」
泣き言を言えば、ガドナには冷静に諭されてしまう。
「工夫だ。それしかない。生き延びたどいつを見ても、自分に合った武器や装具を選び、自分に合った戦い方をしている。ヒューイも生き延びたいなら、考えることだ」
『それはそうだ。体格差は埋めようもないから、それを踏まえて手を考えなければ』
こうして、ヒューイは夜な夜なセケイダヴィステを装着しては、資材集めに奔走した。
何しろ、お金がないから買い物は出来ない。なので、森で木や実を集めたり、あの樹木の洞から通じる場所に行って革紐や火掻き棒のような物を失敬してきたのである。
それらを使い、接近戦用に腕に装着型の機械弓(クロスボウ)や吹矢を作り、自分用の設置型の大盾(パヴィス)を作成した。
後は、洞で手に入れた色付きの下敷きを使って、こっそり兜(ガレア)に日除けをつけたりもした。
ガドナは、俺の作る物をチラチラ盗み見していたが、日除けを目敏く見つけて、下敷きを半分横取りされてしまったのだ。
戦車に乗っている間中、やはり眩しいと感じていたそうだ。
「こんな物、いったい何処で手に入れたんだ? なぁ、ヒューイ。無事借金返済できたら、俺と商売しないか?」。
「生きていられたら考えますよ」
「是非そうしてくれ」
それからも、あれこれ戦略を立てたりして、あっという間にデビュー戦の日を迎えた。
ここでの戦車競技とは………。
@ 敷地外に出ないように、呪いをかけられる。(はみ出ると息が苦しくなるもの。二三時間で切れる)
A お互いの背後にある柱の間(ゲート)に先に入った者の勝ち。
シンプルにこれだけだ。
だから、腕に自信のある者は、ゲートの前に立ちはだかって相手を待ち受けたり、ゲートを目指す者の隙(主に背後)を狙ったりして、仕留めてから悠々ゴールする。
俺は、打ち合いは力負けするだろうから、クロスボウで避けさせて、その隙をついてゲートに入るしかないと考えている。
そうすると、やはり背中ががら空きだな。
それでだ、相手に気付かれないように、幻覚作用のあるあの草をすりつぶした物を、俺の放水に混ぜて噴射しようと考えている。
ここに来る時に、俺が嗅がされたあれは、秘薬だと思う。
何故なら、あの虚の中にあった拠点の外には、毒々しい赤い華が群生していたからだ。
ここでは普通に薬として使われているって。
お酒も年齢制限がないみたいで、子供も葡萄酒を飲むらしい。
「ここでの平均寿命は短いんだろうなあ」
つい口に出た言葉を不思議に思ったガドナに質問されて、説明してみるけど「ふーん。変な事考えるんだな」で終わってしまった。
確かに、ここでは年齢を重要視していないから、だから? と思ってしまうんだろう。
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