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作品名:海の民の伝記 作者:雷花 羽畄砂

第10回   地上へ 3
 「何処にあるんだ?」

 「わざわざ来なくとも、持ってこさせれば良いだろうソラン」

 傷ついた市場の人達を、まるで汚い者を払うように蹴って降りてきたソランと呼ばれた男。

 「アキュラス様に渡して驚かせてやるのさ」

 こちらを向いた顔は精悍で逞しい男だった。

 前の人だかりが出来ていた場所にズカズカと進み、人の割れたところの先には、幾つもの檻のような箱が見えたのだ。

 チカッ。

 あんな暗い箱の中まで陽の光りが届く筈もないのに、確かにチカリと光った。

 「これだ、これ」

 ソランと呼ばれた男は、手にした大剣でバサリと 格子を薙いだ。

 その途端、中からゴーッと火炎放射の火が吹き一緒にいた男が持っていた大盾(パヴィス)で華麗に防いでみせた。

 人だかりからは歓声が上がり、まるで英雄のようである。

 ソランは、中に手を入れて薄汚れた綿のような塊を取り出したのだ。

 「こいつ、俺達を殺るつもりだったな」

 「まあ、抵抗するのは当たり前でしょう」

 二人は、よく似た容姿をしている双子なのかもしれない。

 「なら、痛い目に合わせないとな」

 残忍な性格を隠しもしないソラン。

 「いいの? アキュラス様への貢物なんでしょう?」

 「魔物には、序列がある事を教えておかないといけないだろう」

 「殺したら意味ないと思うけどなあ」

 「フラン、もう黙っておけよ」

 汚れた綿は、蠢いていたのだが、ソランに強い力で握られていて徐々に動きが鈍くなっていった。

 「あれは何?」

 俺は堪らずバーナードに質問した。

 「今人気の腰布を着けた龍(タツ)と呼ばれる種族だそうだ」

 「タツって何ですか?」

 「私もよく知らないが、聴けば蛇の一種のように思う」

 「どうするつもりなんだろう」

 「あちこち切り裂いてから、尻尾でも落とすんじゃないか」 バーナードは、諦観したように、こともなげに言ったのだ。

 震えが走る。

 こんな衆目の中で、なんて残虐なんだ。しかも誰も止める者がいないなんて。

 双子が乗っていた戦車の周囲では、怪我人を救出している光景が目に入った。

 バーナードの手を強く振り払い、ヒューイは双子の背後に回ろうとしたのだ。


 「乱暴はやめて。お願いします」

 肌色の濃い異国の少年が、ソランの前で懇願していた。

 「ふ〜ん。お前が身代わりになるか?」

 何も映さないような狂人の目をしたソランは、少年の首に切っ先を向けている。

 『クソ! 俺は、どうする事も出来ないのか? このまま見過ごすのか?』


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