「何処にあるんだ?」
「わざわざ来なくとも、持ってこさせれば良いだろうソラン」
傷ついた市場の人達を、まるで汚い者を払うように蹴って降りてきたソランと呼ばれた男。
「アキュラス様に渡して驚かせてやるのさ」
こちらを向いた顔は精悍で逞しい男だった。
前の人だかりが出来ていた場所にズカズカと進み、人の割れたところの先には、幾つもの檻のような箱が見えたのだ。
チカッ。
あんな暗い箱の中まで陽の光りが届く筈もないのに、確かにチカリと光った。
「これだ、これ」
ソランと呼ばれた男は、手にした大剣でバサリと 格子を薙いだ。
その途端、中からゴーッと火炎放射の火が吹き一緒にいた男が持っていた大盾(パヴィス)で華麗に防いでみせた。
人だかりからは歓声が上がり、まるで英雄のようである。
ソランは、中に手を入れて薄汚れた綿のような塊を取り出したのだ。
「こいつ、俺達を殺るつもりだったな」
「まあ、抵抗するのは当たり前でしょう」
二人は、よく似た容姿をしている双子なのかもしれない。
「なら、痛い目に合わせないとな」
残忍な性格を隠しもしないソラン。
「いいの? アキュラス様への貢物なんでしょう?」
「魔物には、序列がある事を教えておかないといけないだろう」
「殺したら意味ないと思うけどなあ」
「フラン、もう黙っておけよ」
汚れた綿は、蠢いていたのだが、ソランに強い力で握られていて徐々に動きが鈍くなっていった。
「あれは何?」
俺は堪らずバーナードに質問した。
「今人気の腰布を着けた龍(タツ)と呼ばれる種族だそうだ」
「タツって何ですか?」
「私もよく知らないが、聴けば蛇の一種のように思う」
「どうするつもりなんだろう」
「あちこち切り裂いてから、尻尾でも落とすんじゃないか」 バーナードは、諦観したように、こともなげに言ったのだ。
震えが走る。
こんな衆目の中で、なんて残虐なんだ。しかも誰も止める者がいないなんて。
双子が乗っていた戦車の周囲では、怪我人を救出している光景が目に入った。
バーナードの手を強く振り払い、ヒューイは双子の背後に回ろうとしたのだ。
「乱暴はやめて。お願いします」
肌色の濃い異国の少年が、ソランの前で懇願していた。
「ふ〜ん。お前が身代わりになるか?」
何も映さないような狂人の目をしたソランは、少年の首に切っ先を向けている。
『クソ! 俺は、どうする事も出来ないのか? このまま見過ごすのか?』
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