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作品名:海の民の伝記 作者:雷花 羽畄砂

第1回   始まり
 ヒューイは、有った筈のパスポートが見つからず、仕事で急ぐ両親を実畑空港で祖母と一緒に見送った。
 
「すぐに追いかけるよ」

 そう伝えたのに、その言葉は不要になってしまったのだ。

 □■

 「すみの、お線香は一つ?」

 「一束ですよ。竜斗」

 「大和語の単位は難しい」

 帰国子女の俺は、中々に苦戦している。

 因みに、父方の祖母が呼んだ名前は和名だ。

 「まだ若いのだから、大丈夫よ。すぐに覚えられるわ」

 祖母と言ってもまだ若いすみのは、チャーミングに笑った。


 両親が飛行機事故で亡くなってから一年が経つ。

 俺達は、見上げた空に引かれた一本線の無事を祈りながら、一周忌を終えたところなんだ。


 それで、大学を飛び級で卒業した俺は、今、『シーモンクトライアングル』について調べていた。

 百根県原宿崎と中帽子諸島とキャンデを結んだ、トライアングル地帯に起こる原因不明の海難事故多発地帯を指すのだけどね。

 昔話では、一つ目の海法師が暴れて船を沈没させたと言うもの。

 近いものでは、戦後多発する海難事故を戦勝国が不思議に思い、名づけた都市伝説と言うものだ。

 実際は、暗黒礁と呼ばれる海底火山によって起こる、噴火や津波に巻き込まれたと言われている。

 しかし、断言はされていない。

 何故なら、生き残った者がいないからだ。

 別に、両親の事故が原因で調べている訳ではないんだ。

 すみのの、いや父の実家近くの河原には、よく化石が見つかる。

 ただ、恐竜や昆虫等のメジャーな物ではないから、世界からは見向きもされていないし、土地の者達は見馴れているせいか何とも思わないみたいなんだ。

 だけど、帰国子女の俺からすると、色の付いた石が重なっているところが、昔のメモリーに見えて気になるんだよな。

 それから、河原の側の土を盛った場所では、大きな窪みのある石板を発見してしまったんだ!

 何が言いたいかと言うと、昨今は暗黒礁の調査が進み、報告書が作成されている。その中に暗黒礁のカルデラ状の写真があって、同じような模様がついた化石が埋まっているのを偶然発見してしまったんだよ。

 暗黒礁はすみのの街から、丁度、海を隔てた先にあるんだ。

 そこで色々伝記や伝承都市伝説迄調べたと言う訳なんだよ。



 「さて、この石板の横から掘り出した遺物が、この部分にフィットするから……あとは、この化石なんだけど……」

 俺は、思い付く限りの方法で試し、川の水も汲んで入れてみた。

 何かが交ざる道筋があるけど、それが何か判らない。

 そろそろお昼だなと諦めた時に、気が抜けて石板の縁で指を切ってしまい、血が一滴川の水を貯めた場所に落ちてしまった。

 驚く程波立った波紋が広がりをみせた時、そこに映ったのは頭上にある太陽だった。

 カーーッと光り、それは太陽と石板を細い糸で繋いでいたんだ。  


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