次の日の午後、休憩時間に、彪は再び暎蓮の待つ『雲天宮』へと行くことになっていた。夕方、再び集合ということにはなっているのだが、暎蓮が、『それなら、明日もご一緒にお茶を』と言ったのだ。……今夜の作戦会議も兼ねて、というのが、彼女の言い分だったが、どう見てもそれは言い訳で、彼女が彪と一緒に過ごしたいからだということは、彪でなくとも明白だった。……彪は、またしても照れで顔を赤らめながらも、その気持ちがうれしく、結局その言に従うことにしたのであった。 部屋を出る時、ふと思い出して、制服の単衣の袖に、昨日から全く進捗していない『術』の陣形を描いた紙を、しまい込む。……忘れないで、今日こそ、お姫様から助言をもらわなきゃ。
「……彪様!」 『雲天宮』の門が見えてくると、いつもの『斎姫』専用の衣装をまとった暎蓮が、例によって笑顔で手を振って彼を待っていた。 彪は、顔を赤らめつつも、それでも一応、言ってみた。 「お、お姫様。みだりに、宮殿の外に出ちゃ、だめだよ。誰かに顔を見られたら……」 「大丈夫です。……ここは、城の最奥部。この宮殿に関係のない方は、いらっしゃいませんし、警備の方々は、大半が、私が幼き頃からこの宮殿を護ってくださっている方々です。……皆様は、もはや『親戚のおじさま』たちのようなものなのです」 彼らがそう言いあっていると、まさにその門前の兵士が、 「姫様。白点様のおっしゃる通りですよ。宮殿外の誰かにご玉顔を見られたらどうなさるのです。……それに、あなた様はこの国の『宝』である、『斎姫』様。わたくしたち兵士などと、『親戚同様』などとおっしゃってはいけません」 と、口を出してきた。 言葉の割には、彼女の様子がほほえましいのか、笑いを隠せないように言う兵士に、 「あら。だって、私が小さなころは、よくお庭で遊んでくださっていたではないですか。ご一緒に、お人形遊びや、おままごとなどで。……近ごろ、皆様は、あまり私と遊んでくださらないので、つまらないです」 少しばかり拗ねたような口調で言う暎蓮に、 「姫様。ご自分のお立場をお忘れですか。あなた様は、もはや、『斎姫』様であるのと同時に、この国の『王妃』様なのですよ。警備兵などと遊ばせておくわけにはいきません」 彼は、笑いをこらえた顔を崩さないまま、言った。 「お人形遊びは、もう、ご卒業ください」 暎蓮は、がっかりしたような顔をした。 「お人形遊びも、おままごとも、あんなに楽しかったではないですか」 「今は、お人形の代わりに、白点様と楽しくお話されていらっしゃるでしょう」 それを聞くと、暎蓮の顔が、輝いた。彪の片手を握り、彼を体ごと自分のそばに引っ張り、言う。
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