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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第36回   第三十章 危機的状況と、暎蓮の反撃
 『合』が体を修復している間、彼らは話した。
「ともかく、この人、人形にだけでもこれだけの『邪念』を詰め込めるってことは、もう、本体を見つけても、滅する以外に手はないね」
「はい」
 『邪霊』や『邪念』に憑りつかれた人間は、その時間が短ければ、『巫覡』の力を持ってすれば、それを切り離すことが可能なのだが、時間が経ちすぎていると、もう肉体と癒着してしまい、切り離せなくなる。そうすると、その『邪気』を消すためには、肉体ごと滅するほかなくなる。しかし、それができるのは、やはり『巫覡』だけだ。
「この人形が、この方の最後の切り札ということは、これを壊してしまえば、『合』様の『邪念』は本物の肉体にお戻りにならざるを得ないわけです。ですから、まず、目の前にいる、この『合』様人形を、壊してしまいましょう」
「その行き先を感じ取れれば、本体にたどり着くってわけだね」
「その通りです」
 その次の瞬間、彪は殺気を感じて、反射的に暎蓮の片手を引いた。彼女の軽い体が、引っ張られ、彪の胸に倒れ込む。
 ……今まで、彪たちがいた場所に『合』が刀での突きを繰り出していたのだ。『合』は彪たちに突きをかわされ、今度は刀を横に向けて切り払ってきた。彪は、その第二撃を、暎蓮を抱きしめたまま、仰向けに倒れ、自身の体の下に、『結界術』でクッションを敷いて、体を強打するのを防ぎつつ、かわした。
「お姫様、ごめんね!……少しの間、我慢して!」
 彪は、そう言うと、暎蓮の返事も待たずに、『合』人形のかけらで彼女が怪我をしないよう、『結界術』で暎蓮と自分をまるごと包み、彼女を抱きしめた格好のままで、地面を数回転して、『合』から離れた。そのまま、仰向いている自分の胸に懸命にしがみついている暎蓮を支え、立ちあがらせると、つづいて自分は、しゃがんだまま、彼女の手を引き、後ろに下がらせる。
「彪様!」
 彼の後ろで、暎蓮が叫ぶ。
 『合』が歩いてきて、立ち上がりかけている彪を、袈裟懸けに斬ろうとしてきたのだ。
 彪は、それこそ武術の動きの見よう見まねで、体を斜めに反転させて、それをよけた。……なんとか、それはうまくいったようで、彪本人は無事だったが、『合』の持つ刀の切っ先が、彪のまとう占天省の単衣の袖に引っかかり、袖が破れた。そこから、昼間から入れっぱなしだった『術』の陣形を描いた設計図が落ちた。……しかし、そんなものに構っている暇はない。なんとか、せめて暎蓮から離れようと、体の向きを変えようとした瞬間、再び『合』が、真横に刀を突きだす形で、彼の動きを封じた。彪は、二度、同じ攻撃が通じるだろうか、と思いつつ、だめもとで、再び扇での『強力』を使って、『合』の、『邪念』の炎をまとう刀身を叩き折ろうとしてみた。しかし、今度の『合』の刀身は、よほど『邪念』を込めているのであろう、先ほどよりもはるかに重かった。
 彪は、その『力技』に、歯を食いしばりながら、必死に片手で懐を探ると、もう一枚『符』を取り出し、『合』の刀身に、手を怪我しないように『聖気』を集めてから、その『符』を、力を込めて、貼りつけた。
「……断(だん)!」
 『言の葉』により、『術』が起動され、『合』の刀の刀身が、『符』を貼りつけた箇所から、音をさせてひびが入り、次の瞬間、見事に断ち折れた。
「なんだと!?」
 さすがの『合』も、驚いたようだった。折れた刀身を愕然と見ている。その間に、暎蓮は彪に駆け寄った。
「彪様、小型の『入らずの布陣』を!」
「うん!……発!」
 『入らずの布陣』は、彪と暎蓮だけを取り囲む形で、発動した。……暎蓮が、彪の肩に手をかけて、言う。
「これで、『合』様はもうご自分のお体を修復することはできません。……彪様。『合』様は強敵です。ご一緒に、攻撃しましょう」
「うん。……俺が、やつの注意を引くから、お姫様は、その瞬間を狙って」
「わかりました」
 二人は、真剣な顔で、うなずき合った。そうこうしている間に、半ばやけになったような『合』が、それでもこちらを攻撃せんと、手を伸ばし、そこから『邪気』の塊を『入らずの布陣』の壁に向けて、連続で放射してくる。そのしつこい攻撃に、彪は顔をしかめながらも、こちらは『入らずの布陣』内から、『聖気』の塊を、連続で手から放射して、『合』に対抗する。
 ……こうなってくると、お互いがお互いの『気』の塊を、迎撃しあっているような状態になってきた。しかし、その伯仲した状態に我慢が出来なくなってきたらしい『合』は、落ちていた刀の刀身を素手でつかみ、それで『入らずの布陣』に斬りかかってきた。
 彪は、とっさに、三回腕を上げて、前面の壁を三重にし、強化した。それと同時に、『合』を指さし、
「……不動!不動!不動!」
 と、三重に『縛術』をかけた。『合』の動きが一瞬止まるが、『合』はにたりと笑うと、いきなり奇声を発した。長く、高く響くそれは、すでに狂人のそれに近く、彪と暎蓮は耳を塞いだ。『合』の声からは、『妖力』が感じられた。
 それに気づいた彪が、はっとして目を見張った。
「『縛術』が……!」
 『合』の奇声で、彪の『縛術』が崩れかかってきたのだ。彪が驚きで、思わず声を失った。しかし、その隙に、『合』が、『邪眼』の力を使って、『入らずの布陣』も壊そうとする。
「……彪様!」
 暎蓮が彪の肩に手を置いた。彼の前に出ようとする。我に返った彪が、
「お姫様!?」
 と声を上げると、暎蓮は、彪に向かって、優しく微笑んで見せた。
「私の後ろにいらしてください。……少しの間」
「えっ……な、なにをするの?」
 彼女は彪の問いには構わず、彼の前に出、彼から自分の顔が見えない位置に立つと、『入らずの布陣』内から、『合』と対峙した。
 『合』が進んで来ようとして、彼女の顔を見た。……そして、次の瞬間。
 彼は、大声を発した。しかもその声は、恐怖が混ざった声だった。
(なんだ!?……お姫様は、なにを……)
 『合』が恐怖におののいた顔でのたうちまわるのを見て、暎蓮はゆっくりと彪を振り返った。その顔は、いつもの穏やかな彼女の顔だった。
「お姫様、なにを……」
 彪の言葉に、暎蓮は、言った。
「『呪詛』をなさった方には、『呪詛』返し、です」
「『呪詛』返し?」
 暎蓮は、こくりとうなずいた。
「私は宮廷の『巫覡』です。『呪詛』の訓練は今まで何度もしてきました。実戦で使うのは、これが初めてですが。……羅羅様と奥様と御一緒に『結界』内にいるうちに、あの方々の悲しみと、背負わされてきた『呪詛』の大きさを感じ取ることができたのです。だから、その想いを、この眼で『合』様にお返しした、ただそれだけのことです」
「『眼力』……?」
「はい。その一つです。……でも、この技を行うところは、彪様にはご覧になっていただきたくなかったので、私の後ろに下がっていただきました」
 そう言っている間にも、『合』は目を押さえ、よろめいていたが、再び体勢を立て直し、今度は、先ほどと同様に、奇声を上げながら、体ごと『入らずの布陣』に体当たりしてきた。奇声の『妖力』と、『合』が布陣の『壁』にぶつかるその勢いに、『入らずの布陣』がきしみ、揺れる。


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