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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第35回   第二十九章 『最新版・現代邪術』
 一方、彪は、『合』の長刀による斬撃をかわすべく、右手に料紙で作った『壁』を持って『合』の攻撃を防ぎ、左手では、閉じた扇の『強力』を使って、それを打撃武器として使い、どうにかしのいでいた。……だが、二人の身長差があまりにもあるせいで、上からの攻撃をされつづけている彪は、確かに『力技』では、分が悪かった。しかし、彼は、頭の巡りがいいほうだ。……『術』を、『知恵』もしぼって使い分け、なんとか互角の領域まで持ち込んでいた。
 『合』の上からの斬撃を、料紙の『壁』で受け止め、彪は、その手に力を込めつつ、『合』のすねを思いきり蹴飛ばした。
 足払いにこそならなかったが、もとが木彫りの人形だからだろうか、『合』の膝関節に響いたらしく、『合』は声を上げて、後ろに向かってよろめいた。彪が、その瞬間を逃さず、腰が下がって、彼の目線近くまで降りてきた『合』の右肩に、思い切り扇の一撃を浴びせた。
 彪の持つ、物理的力と、『術』による『強力』の効果で、『合』の右肩から、鎖骨近くにかけて、バキッと大きな音がし、その場所がへこんだのが衣服越しでもわかった。   『合』が声を上げ、彼の右腕がぶらりと下がる。……しかし、それでも刀を手から離さないのには、もはや『諦めが悪い』を通り越して、大した根性すら感じた。……そう、彪が思った次の瞬間、『合』は、驚くべきことをした。
 刀を左手に持ち替え、今負った右肩の傷に、その刃を突き刺したのだ。……刀から出る『邪念』の黒い炎が、彼の傷にしみこみ、体が修復されていく。
「…………!」
 その様子に、それを見ていた彪も、彼の後ろから駆けてきた暎蓮も、目を見張った。
 体を修復した『合』は、右肩から刀身を引き抜いた。再び、右手に刀を持ち直す。
 彪は、『合』に向かって、言った。
「なるほど。……その、ここまでの間にあんたが使った『邪術』の数々が、『現代の最新邪術』ってわけか。近頃の『仙士』も、だいぶ『術』を研究するようになったんだな。だが、あんたに力を与えたやつは、どうやら『邪術』専門家らしいが」
「『邪術』であろうとなんであろうと、勝てればいいのさ。『敵は、倒す』。これが、人間の本能だろう?たとえそれは、『巫覡』だって同じだろう。今さら驚くことじゃない」
「……まったく、気に入らない男だな。自分の理屈を正当化するために、どれほど『人間』という存在を穢すつもりだ?……羅羅さん」
 彪は、前を向いたまま、後ろの『結界』内にいる羅羅に向かって、声をかけた。
「あんた、つくづく、この男と結婚しなくてよかったと思うよ。まあ、その後が、悪かったけれど。……奥さんも。こんな男に見初められなければ、その後の人生違っていたかもしれないのにね」
 『合』が、その彪の言葉にハッと息を吐いた。
「私がこの女たちを見初めた?……馬鹿馬鹿しい!誰が、こんな、美しくもなければ、従順でもない、私をないがしろにするような女たちなどを見初めるものか。この女たちが、勝手に私に付きまとってきたんだ。近づいてきたから、少し優しくしてやったら、勝手に、『自分に気がある』と勘違いしてね。いっそ、『鏡を見ろ』と、何度言ってやろうかと思ったよ」
 吐き捨てられたその言葉に、霊体である羅羅と妻は、……肉体がないにもかかわらず、蒼ざめた。
 彪の後ろに立っていた暎蓮も、表情を硬くした。
「……不動!」
 彪は、もはや言うことなどなくなり、その代わり、『言の葉』に本気の怒りを乗せて、『術』を起動させた。『合』が『縛術』で動けなくなる。しかし、『合』はなんと、それに抗い、持っていた刀の『邪気』の炎で、『縛術』を切り裂いた。『合』は、彪をせせら笑うように、言った。
「無駄だよ。お前の力じゃ、私は倒せない。この体さえあれば。……そして、『斎姫』。私のもとへ来い。たとえ『斎姫』としての力を失ったとしても、お前はそれを差し引いたとて美しい。あんな女たちの魂など、さっさと『地獄界』に落とし、私とともに」
 『合』が言い終わらないうちに、彪は『合』に向けて、懐から一掴みの鋲を取り出し、投げつけると、その効果で悶絶する『合』から暎蓮を護るように、離させた。自分の後ろに彼女を下がらせる。
「……彪様。……この方、私も、……いやです」
 暎蓮は硬い表情で、途切れ途切れにだが、はっきりと言った。
 彼女は、懐から、『破邪の弩(ボウガン)』を取り出した。
「これで、……滅します」
「うん。だけど、その前に、この布陣内にいるはずの『合』本体を見つけないと」


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