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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第34回   第二十八章 攻防
 『合』の『邪念』は、その体から抜け、戸棚の中に入っていた長持の中に飛び込んだ。 『合』の黒煙を上げつづける体が、『邪念』が抜けたことで、くずおれる。
「まさか、あの中には」
 暎蓮が、彪の『結界』内で、両手で羅羅と妻をかばいながら、つぶやいた。
 ……長持のふたが、内側から持ち上げられ、そこから出てきたのは、……等身大の木の人形だった。その胸には、『符』が貼ってあり、その『符』を通して、人形の体に、『合』の『邪念』が染み渡ってゆき、徐々に、再び、新しい『合 前五』が出来上がる。
 長持の中から出てきて、部屋の床を踏みしめた、新しい『合』は、笑った。
「この体は、これまでのものとは違う、最新式の『術』を施した、最強の体だ!……『巫覡』!これで、今度こそ、お前を殺してやる!」
 今度の『合』は、今までの身分は文官だったというのに、腰に刀を差していた。……おもむろに、それを抜く。刀身には、『邪念』を象るように、黒い炎が取り巻いていた。
 『合』は、その黒い炎の威力を確認するかのように、刀身を顔に近づけ、舌を長く伸ばし、刃を舐め上げた。その顔が、にたりと笑う。……彪の顔が、厳しくなった。
 『合』は、言った。
「……先ほども言ったが、『浄化』に特化した『巫覡』の体は、鍛えられていない分、軟弱だ。……だが私は、『巫覡』であった時から、『男』であることを忘れまいと、『剣技』で体を鍛えてきた。この技をもってすれば、お前ごとき、斬り殺すなど、造作もないことだ」
 『合』は、言いざまに、彪に向かって、刀を振り上げ、突っ込んできた。
 彪は、『巫覡』だ。『術』で『力技』こそ補えるが、これまで肉体面を鍛えるための指南は受けていないので、『武術』全般には疎い。しかも、まだ子供で、体も小さく、それだけ間合いも狭い。……となると、『力技』も含めた、『術』を使うしか、勝つ方法はない。しかも、『知恵』も使って。
 彪の目の前で、『合』が刀を振りかぶる前に、彪は、懐から扇を出した。それを閉じたまま、自らの『聖気』を込め、『言の葉』で、『術』を起動する。
「……強(ごう)!」
 起動した『術』の力で、閉じられた扇が鉄よりも固くなり、『強力(ごうりき)』を発する。その『強力』で受けられた『合』の刀が、はじかれた。しかし、『合』は、すぐに至近距離から今度は彪の顔面に、突きを見舞ってきた。
「……彪様!」
 後ろから暎蓮の声がして、次の瞬間、『合』の体が後ろに吹き飛ばされた。
 ……暎蓮の得意技、『遠距離結界術』によって、彪と『合』の間に『壁』ができ、『合』の体が吹き飛ばされたのだ。
「ありがとう、お姫様!」
 彪は、後ろに向かって叫んだ。そうしている間にも、『合』は再び立ち上がり、顔を険しくして、再び走り込んでくる。
 彪は、『合』の部屋の中を見渡した。部屋の隅の流しの中に、水を張った桶があるのを見つけると、今度は扇を開いた。近づいてくる『合』に向かい、再び、『言の葉』で、『術』を起動させる。
 開いた扇で『合』を扇(あお)ぎながら、彼は叫んだ。
「嵐(らん)!」
 彪の『言の葉』に合わせ、『合』の周りにだけ、強力な風が吹き、彼を取り囲む。そして、『術』の効果で、流しの中にある桶の中の水が、風に呼ばれ、それはあたかも雨粒のようになって、強風とともに『合』を襲った。大粒の水のしずくで、目を開けていられず、『合』は袖で目を覆った。
 一方、暎蓮は、彪の『結界術』の中で、まだふらついている羅羅の人魂と、『合』の妻の霊体に言った。
「彪様の『結界』の内側に、私の『結界』も張って、二重構造にしておきます。……危険ですから、お二人とも、この中にいらしてください」
 妻が、言う。
『そ、そんな、……では、『斎姫』様は……!?』
 暎蓮は、地面に『破邪の懐剣』の切っ先を突きたて、『結界』を二重にした。
「私は、『巫覡』の一人として、『合』様という『邪』を滅さなくてはなりません。それは、私たちの『使命』です。そして、それが、『天帝』様の『ご意志』なのです。……お二人とも」
 暎蓮は、二人に向かって優しく微笑んだ。
「……よく、ここまで、頑張られましたね。今まで、おつらかったでしょうね。でも、ご安心ください。お苦しみになるのは、今日で最後です。……この『命(めい)』を果たしたら、すぐに、お楽にして差し上げます。それをここで、お待ちになっていてください」
『……『斎姫』様!』
 妻と羅羅が、声をそろえて叫ぶ。暎蓮は、振り返り、再び彼女らに向けて微笑んでみせると、『結界』を抜けていった。


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