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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第33回   第二十七章 『推察』と『反撃』
 彪は、懐から数枚の攻撃用の『符』を取り出すと、辺り一面に向かって、撒いた。   『合』人形たちが、一斉に、上から落ちてくるその『符』を見上げる。その瞬間に、彪は、印を結び、
「……破(は)!」
 と『術』を起動した。
 『符』が光を放ち、破裂する。それと同時に、彼の周りにいた『合』人形たちが、ほとんど破裂して吹き飛び、辺りにその破片が飛び散った。
 彪は、それと並行する形で、走った。自分が張った、暎蓮の周りにある『結界』内に、頭から飛び込む。その彼の体は、勢いがありすぎて、地面で一回転した。
「彪様、ご無事ですか!」
 一回転して立ち上がる前、しゃがみ込む形の姿勢の彪の横に、暎蓮もかがみこむ。
「……大丈夫!」
 彪は、そう言って、立ち上がった。
「お姫様、『合』さんは、あの人の実体を探さないと滅せない、『気』を広げよう」
「はい!」
 そこへ、妻が口をはさんだ。
『あの男の本物が、どこにあるかを感じ取ればいいのね?』
「そうなんだ。だけど、すぐ近くにいるはずだ」
『どうして?』
「奥さんが気付いたかどうかはわからないけれど、俺たち『巫覡』の感覚では、『合』さんが、多数の木彫りの人形に『邪気』を吹き込んで、あれだけの数の『合 前五』を起動させていたのに、その『気』が薄まらなかったのに気付いた。つまり、本体はこの近くにいて、……おそらく、また『仙士』からもらった『術』だと思うけれど、それを使って、『気』を絶え間なく人形たちに注ぎ込んでいるからかもしれないってことだよ」
 彪は、つづけた。
「だけど」
 そう言っている間にも、最後に残った『合』の人形が、彼らの『結界』に近づいてくる。
「……ここには、俺の張った、『入らずの布陣』が構成されている。『結界術』の応用である、この布陣の外からじゃあ、『気』を送り込むなんて真似は、出来ないはずなんだ。つまり……」
 『結界術』の外から、『合』が、また『邪気』まみれの硬い楊枝を数十本も投げつけてきた。彪は、暎蓮と妻を後ろにかばい、片手で『結界術』を強化しながら、言った。
「普通に考えれば、『合』さんの本体は」
 彪は、『結界』越しに、迫ってくる『合』に、懐から、護身用の、彼の『聖気』が練り込まれた鋲を一掴み出して、投げた。
「……この、『入らずの布陣』内に、いるはずなんだ!」
 彪の鋲は、相手に『邪気』があれば、肉体を持っていようがいまいが通じる武器だ。
 『合』が、鋲が当たった箇所から、黒煙をあげ、痛みにのけぞりつつも、片手で再び『邪気』を宿した楊枝を摑めるだけ懐から出し、投げつけてくる。
 ……重い……!
 彪は、それを、『結界術』を三重にして、なんとか防いだ。『合』は、大きく口を開け、叫びながら、彪の張った『結界術』の壁に、かみついてきた。その口から、牙が伸び、長い舌からは涎が飛び散る。
 彪は、顔をしかめながら、かみつかれた衝撃で歪みつつある『結界術』の壁を強化するべく、自らの手に、ふう、と息を吹きかけた。彼の手が、光を放つ。
 『合』は、残っていた楊枝すべてだろう、それを片手につかみ出すと、手から『邪気』を込めて、それを大きめな木片に変えた。先のとがった、……杭のようなものだ。
 『合』は、声をあげながら、彪の『結界術』に向かって、それを突き込んできた。『結界術』の一重目、二重目が、それによって崩される。 
 三重目に届く前に、彪は、自らの腕に『聖気』を集め、その杭の切っ先を止めた。……言ってやる。
「『合』さん、……あんた、さっき、言ったな、俺が子供だから、大人の男の『力技』にはかなわないって」
「それが、事実だ!」
 そう叫んだ『合』は、もう一度、彼に向けて杭を突き込んできた。彪は、今度は、それを、利き手である右手の拳に『聖気』を込め、受け止めた。
「……たった今、思い知るんだな、それが間違いだってことを!」
 彪は、言いながら、強い力で、拳ごと杭を突き返し、『結界』を抜けて、『合』の目の前に、勢いよく出た。
 そして、懐から攻撃用の『符』を一枚取り出すと、それを手にして、よろめいて腰を落としていた『合』の左頬を、その手で思い切り張ってやった。
 まず、力のない子供の彪の手で頬を張られたはずなのに、その、意外なほどの痛みと力に、『合』は声を上げた。
 彪は、つづいて、素早く、印を結んだ。
「……焦(しょう)!」
 『言の葉』で『術』を起動すると、『合』の頬に貼りついていた『符』が、黒煙をあげだした。……『符』が、『合』の頬もろとも、熱をもち、焦げはじめたのだ。
 ……『合』は、地面を転がり、のたうちながら、頬から『符』を引っぺがそうとした。頬からは、どんどん煙が上がる。『符』は、はがれないままだ。『合』は、叫び声をあげた。
 それを見下ろす彪は、言い放った。
「……俺は、『術使い』だ。『力技』なんて、『術』さえ使えれば、すぐにあんたに追いつく。……ついでに言うなら。『巫覡』を、なめるな」
「く、くそ!……まだだ!」


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