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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第31回   第二十五章 『彪』対『合』
 ……先に動いたのは、『合』のほうだった。手にしていた短刀で、鋭く彪を突きにかかる。
 例によって、一撃で連撃になるその刃の攻撃を、彪は、自分の全身を自らの『聖気』で包むようにして、撥ね飛ばし、防いだ。しかし、その攻撃は囮だったらしい、『合』は先ほど妻に対して行ったのと同じように、口から『邪気』の塊を吐き出し、それで彪の顔面を襲った。
 しかし、彪も『巫覡』の一人だ。その大きな『邪気』の塊を、『巫覡』の持つ『眼力(がんりき)』で、力を込めてはじき飛ばした。彪から離れた『邪気』が、じゅう、と音を立てて、霧散する。
 それを見ると、『合』は、くくく、と声を上げて笑った。
「なるほど、なかなかやるな。お前も、子供とはいえ、『巫覡』を名乗るのは伊達ではないわけか。……だが。……『巫覡』の弱点、というものを知っているか?」
 『合』はつづけた。
「私はもと『巫覡』。それだけに、普段から鍛えられていない、『浄化』に特化した、肉体的に軟弱であるという『巫覡』特有の弱点は、よく知っている。ましてや、お前は、まだ子供。いかに『聖気』が強くても、肉体面での『力技』において、大人の男である私にかなうと思うか?」
 彪は、それには答えなかった。……ただ、体が自然に、『攻撃』と『防御』の両方に備えた構えをとる。
「……答えを返さないところを見ると、その辺がまるでわかっていなかったようだな。……いいか」
 『合』は、彪に向かって、表情を凄ませた。
「私には、お前の『聖気』など、簡単に打ち破るための『力』がすでに備えられている。お前が私に勝てる要因など、なに一つないのだ。……そうだな、では訊いてやろう」
 『合』は、下卑た笑いを浮かべて、彪に問うた。
「降参するか、私に弑されるか、どちらを選ぶ。それと、……そちらの『斎姫』も。抵抗をやめて、私に傅く気はあるか?」
 『合』は、自らの穢れた望みが実現するのを想像してか、うっとりと言った。
「お前と一緒に、手を取り合って、この都を出よう。……もと『浅南国』であった地に、私所有の土地がある。そこに、長年この城に仕えて貯めた財をもって、お前に似合う、大きく、壮麗な屋敷を建てよう。……なに、その後の金のことは心配するな、私のこの無数の体が、勝手に、『妖力』をもってして、私たちが仲睦まじく暮らすための財を成してくれる」
 『合』は、閉じていた眼を開けて、暎蓮に向けて、言った。
「そして、お前を、毎日、毎日、今にも増して美しく飾り立て、限りない贅を尽くさせてやる、そう、今の生活に負けぬほど。……どうだ?」
 暎蓮が、その穢れた視線に、思わず後ずさるのを見た彪は、力の限り、叫んだ。
「……この、下衆!」
「『下衆』?」
 『合』は訊き返し、笑った。
「小童。……『巫覡』で、しかも子供のお前にはわかるまいが、『男』とは、常に『野望』を持つ生き物だ。その望みを穢れていると思うほうが間違っている。……所詮、『巫覡』など、男であることを捨てた存在だ。……『天帝』の声を聴く?それを王に進言したところで、私たちになんの利益があるというんだ?……私は『巫覡』である前に『男』だった。『頂点に立ちたい』という望みを持つのは、自然なことではないのか?」
「……これで、あんたが、もと『巫覡』だったっていうのが、さらに怪しく思えてきたよ。大体、『男』であることと、俺たち『巫覡』が自分たちの『使命』を果たすこととをつなげて考えようっていうのが、あんたのいかれた思考だ。……もっと言わせてもらえば、『頂点に立ちたい』のはあんたの勝手だが、俺たち『巫覡』は利益があるから『天帝』様の声を聴くんじゃない。それを自分の誇りと思うから、『使命』を果たしているんだ。……都から出たいなら出ればいいが、お姫様まで巻き込むな。たった一人で、とっとと消えろ」
「小童。……雑言が過ぎるぞ」
 『合』の顔が、険しくなった。短刀を構える。
「その口、今すぐに塞いでやる」
 『合』はそう言いざまに、彪に向かって、短刀を構え、突っ込んできた。しかし、彪は、その前に、自分の懐から、数枚の料紙を取り出していた。彪が、空中に料紙を広げるように並べながら、『縛術』をかける。
「……壁(へき)!」
 料紙は空中にとどまり、硬い壁となって、『合』の刃を跳ね飛ばした。連撃となるはずの『合』の刃は、『合』が一撃目にしか力を込めていなかったからだろう、次の数度の突きは、力を損ない、『合』の手から短刀が落ちた。衝撃で、手首を痛めたのか、『合』が舌打ちする。
「不動!」
 彪が再び『合』に『縛術』をかけるが、一瞬早く、『合』の『邪念』は手首を痛めた体から抜け、新しい人形に移った。再び、構成された『合』が立ち上がり、笑う。短刀を拾いあげ、
「もう、いい加減、飽きてきたぞ。ひと思いにお前を殺せれば、これで私のすべての望みがかなうわけだな。……では、さっさと片付けてしまうか」
 『合』の手にしていた短刀に貼られた『符』から、『邪気』が漏れ出てくる。再び、『合』は彪に躍りかかった。彪は、反射的に、体を開く格好で、第一撃目をなんとかかわし、自分の真横に短刀の刃があることを目視したのと同時に、それまで『壁』として使っていた料紙の向きを変え、刃に向かってそれを振り下ろしながら、
「斬(ざん)!」
 と、『言の葉』をかけた。
「……なに!?」
 『合』が、叫んだ。
 彪は、『合』が突きだしてきた短刀の刃を、柄の根元から、料紙を使って、叩き斬ってしまったのだ。刃が地面に落ち、回転しながら彼らから離れる。
 『合』は、これは予想できていなかったのだろう、愕然として自分の手元を見た。
 しかし、それも一瞬のことで、彼は、すぐに、歯ぎしりをしながら、手の中に残された、『邪気』を発する『符』の貼られている、短刀の柄を彪に向かって力いっぱい投げつけてきた。彪は、もう一度、料紙を『壁』にして、防いだ。『壁』にぶち当たった柄が、彪の『聖気』によって、燃え上がり、黒煙をあげながら、下に落ちる。
 その時だ。


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