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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第3回   プロローグ・パートV 『暎蓮』
 ……暎蓮は、『天地界』じゅうの人間から、『傾国の斎姫』と噂されるほど美しく、また、実際、愛らしい顔の持ち主だ。睫毛が長く、大きな瞳。唇はふっくらとしているが、その形までもが完璧だ。だが、普通ならば、人にはそれぞれ好みというものがあるのだから、暎蓮の顔の造作を好まない場合もあるはずなのだが、彼女に限っては、『斎姫』という職業柄、他人にめったに顔をあらわにしないために、『美しい』という噂だけが先行しているということもあるうえ、実際、数少ない、彼女の顔を見たことがある者たちの中でも、彼女の顔の造作について、批判的な意見はほとんど耳にしない。どんな人間をも惹きつけるという、……なんとも不思議な魅力がある顔だちなのだ。
そして、黒くて柔らかそうな長い巻き毛を、いつも『斎姫』特有の形に結い上げており、それがまた彼女によく似合うのだった。
 身長も低く、体の線がわからない、『斎姫』専用の衣服越しに見ても、華奢な感じで、いってみれば、見た目からして、いわゆる『保護欲』を刺激する相手なのであった。
 そんな彼女は、時には、人間以外のものも惹きつけてしまうらしく、その事実に、彼女の夫である扇賢や、彼女を護るための『術者』である彪は、いつもやきもきさせられている。
彼女の性格は、育ちがいいせいか、穏やか且つ柔和で、いつも優しい微笑みを浮かべている。
『斎姫』という職業柄、『邪気』がなく、その『気』は誰よりも清浄だ。……そして。 彼女は、夫である扇賢一筋に、愛を注いでいる。
だが、彪は、そんな彼女が一番好きなのだった。

 暎蓮は、彪のことを、まるで弟のように思っているらしく、扇賢以外の男子禁制である『雲天宮』にも特別に入れてくれるし、こうして、お茶に誘ってくれるのもしょっちゅうだ。
 彼女の趣味は、料理や菓子作りなどで、お茶の時間には、なにがしか自分で作った菓子の類を出してくれたり、手作りの食事に誘ってくれる時もあった。もちろん、そういう時は、扇賢はもちろん、扇賢の、もと・武術の師である美しい女性、『関(せき) 王音(おういん)』や、扇賢の僕(しもべ)であり、暎蓮に懸想している西方美男子である、『玉雲国』唯一の『騎士』を名乗る、『ウルブズ・トリッシュ・ナイト』といった、よく一緒に旅に出る主要メンバーである仲間たちも誘っているが、彪の中では、そんなことも宮廷勤めの合間での楽しみの一部ではあった。……たとえ、彼女が、彪のことを全く『男』として見ていないということがわかってはいても。
 それは、誰が見ても明らかなことで、以前など、暎蓮からは、よりによって人前で平然と、『一緒に入浴しよう』と誘われたことすら、あるのだ。
 そのことを思い出すと、彼は、照れで、今でもつい、顔を赤らめる。その時は、少年としては、恥ずかしさのあまり、必死に固辞したのだが、だからといって、断ったことを後悔するほど、彼はまだ男性として成熟してはいなかった。その、彼女の、度肝を抜かれるような提案には、……かなり、あせりはしたが。

……が、それはともかく。午後の休憩時間には、暎蓮に会えるのだと思うと、彼の足取りは、自然と軽くなった。すれ違う同僚たちとも、笑顔で会釈をかわせる。
(こういうことがあるから、仕事にも身が入るっていうものだよなあ)
彪はそう思いつつ、自分に割り当てられた個室に入り、文机の前に座った。


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