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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第28回   第二十二章 『合』の復活
 ……笑っていた妻が、やっと言葉を発した。
『『女』というものを、もの扱いした『罰』よ。……これで、終わりよ!』
 ……しばらくたって、空間からの『合』の声が、微かにしか聞こえなくなった。
『私の『迷宮』内に、完全に落ちたわね……』
 妻は、小さくつぶやいた。
『……この『迷宮』の空間の中、生きたまま、永遠に迷い、苦しみつづけなさい、『合 前五』……』
 妻が、『合』の声がほぼ聞こえなくなったところで、ふう、と息を吐き、暗黒の空間を空中に消そうとした。……だが、その時。
 空間内から、なにかを叩くような音がし始めた。最初は小さい音だったそれは、次第に大きさを増してきた。どん、どん、と規則的なリズムで、音はつづく。
 妻も、そして、彪と暎蓮も、その異変に、顔を上げた。
 音はどんどん大きくなっていった。それと同時に、『迷宮』の空間が、きしみ、揺らぎ始める。
「この音、まさか……」
 彪が、信じられないという顔で、言った。
 空間内から、なにかを叩き壊すような音が、幾度もした。そして、次第に、かすかに聞こえていた『合』の声も、完全に聞こえなくなっていく。
「彪様、これは」
 暎蓮も、耳から手を離し、目を見開いている。
『まさか……!?』
 妻が、つぶやき、消しかけていた暗黒の正方形の空間を、じっと見つめる。……音は、さらに大きくなり、ついに、空間自体の表面に、ひびが入った。
『まさか、そんなことが!』
 妻が、呆然としたように言った。……次の瞬間。
 空間が、大きな音を立てて、内側から破壊され、それは木端微塵に吹き飛んだ。
 彪は、その風圧を喰らう前に、とっさに片手をあげて『結界術』を幾重にも重ね、暎蓮と自分を護った。同時に、もう片手の人差し指で、力なく漂っていた羅羅の魂も呼び寄せ、彼女の魂も『結界』内に入れる。
 風が静まるのと同時に、空間のあった場所から、『合』の顔が見えた。
 しかし、顔の、しかも、半分だけだ。辺りには、彼の顔のもう半分や、手足、衣服をまとったままの胴体などが、ばらばらになり、空中を漂っている。
 そのばらばらになった『合』の顔がにたりと笑った。漂っている、宙に浮かんだ片手には、相変わらず『符』を貼った短刀を握ったままだ。
 あの空間の中でなにがあったのかはわからないが、彼は、……生きていたのだ。しかも、体がこれだけばらばらにされているのにもかかわらず。
 『迷宮』内で、永遠に苦しむとは聞いていたが、彼の今のこの状態は、やはり常軌を逸している。
『……なんですって!?』
 それまで鬼の顔をしていた妻が、『空間』の破裂の時の風圧を防ぐべく、力を使ったからか、『気力』をそがれたようで、もとの人間の女の魂の顔に戻って、愕然として、言う。
 縦に割られたような半分だけの顔で、『合』は、笑ったまま、言った。
「やはり、……この程度のものか、お前の力は」
 ばらばらになっていた『合』の体が、パズルのように組み立てられ始めた。……衣服をまとったままの胴体に、腕や脚が戻りはじめ、もとの人型に戻り始める。
 妻がくうっと悔しげな声を上げた。
『……どういうことなの!』
「彪様、おかしいです!」
 暎蓮が、鋭く言った。
「……あの技。いくら、『仙士』様からの『力』を与えられているからとはいえ、これまで常の人間だった方に、こんなことができるわけがありません。……そして、『合』様の『気』が、今までと違ったものに、変化してきています!」
 彪も、その言葉に、感覚を研ぎ澄ませて、『合』の『気』を探った。
「……本当だ!なにか、『邪』な力が、どんどん流れ込んでいる!」
「はい。……ですが、力の出所が、わかりません!」
 暎蓮が、『力』の大元を探そうと、辺りを見回すが、彼女にも彪にもそれは感知できなかった。


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