20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第26回   第二十章 『鬼』対『合』
 妻と羅羅の、一体化した魂を宿した肉体は、天に向かい、すさまじい咆哮を上げた。空気が震える。その額に角が生え、口からは大きな牙が伸び、彼女は『般若』以上に恐ろしい顔をした『鬼』と化した。
 ……肉体は、立ち上がり、彼女たちは、上空を向いていた顔を、部屋の中、窓から見える、彼女たちの正面にいる『合』に向けた。そして、走り出した。土を蹴散らし、轟音とともに、彼女たちは『合』に向かった。
 妻と羅羅の魂を宿した、もと遺体は、『合』へ向かっての直線コースには障害となっていた『清白宮』の外壁を、自らの『邪気』の衝撃でぶち破り、そのまま部屋に走り込んだ。
 ……羅羅の能力だろう、肉体の、すでに乾ききってぱさついた髪が、それでも長く伸び、とげとなって『合』を襲う。
 『合』は、『合』で、容赦なく、彼女たち二人を滅そうと、『符』の貼ってある短刀で攻撃を開始した。
 『合』の突きは、一度だけで、まるで連撃を繰り出したかのように、数度にわたって妻と羅羅を襲うのだ。……これも、あの『符』の力に違いなかった。
 二人対一人の、『怨念』と『邪念』は、激しくぶつかり合った。その衝撃で、『入らずの布陣』内の地面が、激しく揺れる。
「ひゅ……彪様!」
 その揺れに耐えられない暎蓮が、彪にすがる。その彼女を支えながら、彪は、自分たちの周りにとばっちりが来ないよう、『入らずの布陣』の中で、自分たちの周りにもう一重、『結界術』を強化して張った。
 二対一の戦いはつづいている。
 『結界術』の中で、暎蓮が彪に言った。
「彪様、……私。もはや、『合』様は仕方ありませんが。……羅羅様と奥様は、お助けしたいのです。こんなの、……お気の毒です!」
「うん。でも、どうするのが一番いいのかな」
 『布陣』の中、部屋の中に戻ったり、外に出たりしながら戦っている二人の様子を見ていると、……両者とも、満身創痍だ。
 羅羅と妻の肉体は、すでにやつれた姿で、何度も切られた髪も中途半端な長さになっているし、肉体も、『術』の残りが切れてきたらしく、肉の変色が進み、体が崩れ始めてきた。『合』のほうは、喉には髪が巻き付いた痕のあざがあり、その影響だろう、口から血を流し、頭部には、鬼となった羅羅と妻の能力、『長爪』で引き裂かれた跡があり、まとめてあった髪は乱れ、ここもまた流血している。
 その様子を見ていた彪と暎蓮に、『合』は唐突に顔を向けた。
「……『斎姫』!小童!お前たち、『巫覡』なら、さっさとこの女たちをなんとかしたらどうだ!」
 『合』が、礼儀もなにもかなぐり捨てた顔で叫ぶと、妻のほうは、
『そうはさせないわ!……滅されるのはあなたが先よ!』
 と叫び、突然やみくもに、両手を振り回した。その手から、崩れた肉と腐った体液が飛び散り、それは『合』の目に当たった。……『合』は、目つぶしを食らった状態になり、彼は声を上げ、袖で目をこすった。
 そこに、すでに骨も見えかかっている妻と羅羅の肉体が躍りかかる。
 しかし、『合』は、片袖で目をぬぐいながら、なんとか薄目を開け、時間稼ぎにだろう、大きく口を開け、妻と羅羅の肉体に向かって、カッと音をたてながら、大きな『邪気』の塊を吹いた。
 妻と羅羅の肉体は、それにまともにぶつかった。その勢いで、彼女たちの肉体は後ろに吹き飛び、体の肉は、さらに崩れ、びちゃっと気味の悪い音を立てて、あちこちにその破片は飛び散った。その肉体から、妻と羅羅の魂が弾き飛ばされるように外に出る。魂を失い、空になった、ほとんど骨と化した肉体が、地面に崩れ落ち、動かなくなり、それまで一体化していた女たちの魂が、衝撃で妻と羅羅の二つの魂に再び分かたれた。
 その情景の無残さに、暎蓮が思わず目をそむけ、彪は、
「……もうよせ、『合』さん、奥さん!こんな戦いは……不毛なだけだ!」
 と、叫んだ。羅羅の魂は、すでに力が尽きかけているようで、ただの人魂と化し、空中をふらふらと漂っている。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3774