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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第21回   第十五章 『合 前五』との面会
「『合』さんの下の名前って、なんだっけ、お姫様」
 『清白宮』の門から少し離れた、入り口から見て少し斜め前の位置で立ち止まり、彪は暎蓮を振り向き、尋ねた。
 暎蓮が、少し目を細め、思い出す努力をしてから、
「確か、……『前五』様と」
 と答える。
「……『前五』さん、ね。……じゃあ、俺、受付で、部屋番号を見てくるよ」
「はい。……お願いします」
 彪は、門前兵士に身分証明書を見せると、門を抜け、宮殿の入り口の中に入っていった。暎蓮が、門前から少し離れた場所で、門の中の宮殿入り口を見守る。
 ……ほどなく、彪が出てきた。暎蓮が、彼に駆け寄る。
「……いかがでした?」
「部屋の札には、確かにあったよ、『合 前五』って人の名前が。一階の部屋みたいだったから、羅羅さんが言っていた通り、そのすぐ外に遺体を埋める、なんてことも考え付いたんだろうね」
「そうですね。……なるほど、やはり、ここに『合』様という方は、確かにいらっしゃるわけですか……」
 暎蓮が、少し思案するような顔をした。その彼女に、彪が言う。
「俺、『合』さんを呼んでこようか?」
 暎蓮は、うなずいた。
「ええ。お願いします。……でも、その前に。……一度、私たちも現場を見てみましょう」
『合』の妻の遺体の埋まっている場所のことらしかった。
「うん。それが先だね」
 『清白宮』の裏手に行くと、先ほど『邪気』が流れた場所に、もうほとんど感じないほど微かにではあるが、その痕跡が残っていた。
「たぶん、ここだ」
 彪は、すでに草が生え、湿った印象の地面の土の一部を目で示して、言った。
「と、いうと、……このお部屋が、『合』様のお部屋というわけですね」
 暎蓮が、カーテンを掛けられ、中が見えなくなっている部屋の窓を指さした。一階の、……ちょうど、裏庭に面した、角部屋だ。
「明かりがついてる。『合』さんは、今、部屋にいるんだ」
 カーテンの隙間から光がさしているのを見て、彪が言う。
「ええ」
 暎蓮は、彪に、窓を示して、言った。
「……それでは、申し訳ありません、彪様。もう一度、お願いできますか」
 日頃『雲天宮』で、男性と隔絶された生活を送っているため、男性との接触が苦手な暎蓮が、申し訳なさそうに、彪に頼む。頼られた彪は、二つ返事で、
「わかった。でも、この窓越しでいいの?」
 と言った。暎蓮が、また、なにか考えながら、言葉を紡ぐ。
「占天省所属である彪様からのお呼び出しでは、受付の交換台を通してでは、警戒して出てこない場合があるかもしれません。ここからのお呼び出しでも、……仕方ありませんね」
「受付を通すとなると、名乗る時、怪しまれないように、所属名を出さないわけにはいかないからなあ。嘘を言うわけにもいかないし。……じゃあ、なんて、言う?」
「……そうですね。『『麗水宮』からの要請だ』とおっしゃってください。いきなり『占天省だ』と言ってしまうと、やはり警戒するかもしれませんから」
「王様直属の宮殿である、『麗水宮』からなら、もっと驚くんじゃない?ついでに言うなら、俺たち、この単衣を着ているんだから、すぐに正体が丸わかりになる危険もあるけど。……でも、まあ、意外性がある分、少なくとも『雲天宮』を名乗るよりかはましなのかなあ。……よし」
 彪は、手を伸ばして、『合』の部屋の窓を叩いた。二度叩き、少し間を開けて、もう一度叩くと、窓が開いた。
 片手でカーテンをよけ、窓から顔を出したのは、五十がらみの男だった。彪を見て、
「なんだ、君は?」
 と言う。
「白点 彪と申します。……『麗水宮』からの使いの者です。こちらへ」
「『麗水宮』の使い?なんで、私に『麗水宮』から……」
 『合』は、首をかしげたが、ふと、彪のまとっている占天省の制服に目をとめた。
「君、その単衣は」
 『合』が言いかけたところで、その言葉を止めるように、彪の後ろから暎蓮が進み出た。


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