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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第20回   第十四章 彪の疑問と、暎蓮の推測
「だけど、羅羅さんは、どうして、あそこに遺体を埋めたのかなあ?いくら『合』さんを『呪詛』するためでも、遺体の気配を消して、その当人の『合』さんが、平然としているんじゃあ、『呪詛』の意味がないんじゃないかと思うんだけど……」
「それはたぶん、羅羅様の、女性としての『優しさ』だと思います」
「え?」
「『三十年』の『猶予』という期間を作ったのは、その間に、もしかしたら、『合』様がご自分のなさったことを悔いてくださるかもしれない、と、望みをおかけになったからではないでしょうか。あるいは、羅羅様は、その間に『合』様が、いっそ、『天行者(てんぎょうじゃ)(『巫覡』の力は持っていないが、『天帝』を信仰して修行に精を出す人のこと)』にでもなっていてくださったら、その時点で、『呪詛』は取りやめるおつもりだったのかもしれません」
「じゃあ、その『合』さんが、今も変わらず、ここにいることで、羅羅さんは、『合』さんがなにも悔いていない、ということを感じて、怒っているわけだね」
「そうではないでしょうか。ですが、羅羅様は、もはや魂だけの身。この世をさまよっていたとはいえ、『時限式の呪詛』が発動する、今日、この時にならないと、あの方は、この場所に連れ戻されなかったわけです。……たまたま、私たちがその時間に羅羅様を呼んでしまった、ということもありますが。魂だけの身とはいえ、三十年たって、もう一度裏切られたという気持ちは、はかりきれません。……羅羅様は今、おそらく、それこそ、刺し違え、ご自分もろともであっても、『合』様を『滅界』に落とされるお覚悟でいらっしゃると思います。そして、三十年もの時間をかけて膨らんだ、『合』様と奥様の『恨み』。これは、『羅羅様』という物理的対象者がいない今も、やり切れないまま、想像もつかないほどまで大きくなっている可能性があります。だから、もしかすると、『合』様は、羅羅様の居場所を探り当て、『滅界』どころか、『地獄界』にまで落とす『呪詛』を、かけるおつもりで、ここまで過ごされてきたのではないかと思うのです」
「で、でも、それぐらい大きな恨みを持つ人がいたら、それが外ににじみ出ないわけがないよ。同じ『清白宮』に住む、俺たち占天省のほかの『巫覡』にだって、わからないわけがないと思うんだけど」
「……もしかすると、なにかしらの方法で、その恨みを、周りの方には隠す『術(すべ)』を、手にしているのかもしれない、とも思うのですが。たとえば、強い、『意志』の力で恨みを抑え込んでいる、などですが、……これも、どうも……。普通の精神力の方には、なかなかできることではないでしょうね。そこが、わからないところです」
「あるいは、『合』さんは、奥さんを殺したのが羅羅さんだって知らなくて、羅羅さんに対して、恨みの気持ちは持っていないって可能性も、あるんじゃない?」
「そうですね。……ですから、これは、あくまで、『合』様が、奥様の霊体に憑りつかれていた場合、という仮説に基づいて、の話になってしまうわけですが」
 暎蓮は、顎に手を当てた。彪が、改めて、言う。
「もっと言うと、もし、『合』さんが、憑りつかれていて、羅羅さんを恨んでいたってことが事実だったとしても、そんな大きな二つの『邪念』をぶつけ合わせたりしたら、その力がはじけて、城じゅうに被害が及ぶんじゃないの」
 暎蓮は、微笑んで、彪を見た。
「そのために、彪様がいらっしゃるのではないですか」
「え?」
 彪が戸惑う。
「彪様の『入らずの布陣』は、強力な『結界術』であると同時に、『邪念』、『邪霊』を漏らさず集め、逃さない効果もあるわけです。もし本当に、霧散させるのなら、城内に影響のないように、もちろん、その中で行います」
「あ、ああ……」
 暎蓮が、まさかそこまで自分を頼ってくれているとは思わなかったので、彪は少しどぎまぎした。
 暎蓮が再び、ゆっくり歩きだしながら、言う。
「……それにしても。やはり、腑に落ちないと思われませんか、彪様」
「なんのこと?」
 彼女の後を追いかけて、小走りになりながら、彪が答える。
「羅羅様のお話です。三十年前の『時限式呪詛』は、そういう設定だったのですから、今、発動したのも、納得がいきますが、『清白宮』の外に『合』様の奥様のご遺体を埋めたのも、その『気配』を絶つ『術』を施したのも、どこかの『仙士』様。時間が経ちすぎている割には、妙に、『術』がしっかりしている、というか……」
「うん。それは俺もおかしいと思っていたんだ。……普通なら、三十年も経っていたら、もう『術』が崩壊していて、『気配』が漏れ始めてもいいはずだ。だけど、『清白宮』では、遺体の『気配』なんて、今でも感じられないくらいだもの。なにか、変だよね」
「その『仙士』様という方、よほどの手練れだったのでしょうか。それとも……」
 彼らはそこで、『清白宮』前にたどり着いた。二人そろって、立ち止まる。


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