「その御髪(おぐし)の色も、その方が憎いとお思いになった結果ですか」 『そうさ……私の髪は、泣いているうちに、どんどん色あせていったんだ。あいつへの愛も薄れていくのと同時にね』 「ですが。霊体の身で、そんなお力を振り絞れば、あなた様のほうだって、ただではすみませんよ」 羅羅は、やけになったかのように笑った。 『……『巫覡』さん。あんたはもとから結婚しない身だろうから、この気持ちがわからないのさ。慕っていた男に、裏切られたことの悔しさがね』 暎蓮は、それには答えず、彪を見た。 「……彪様、『清白宮』に『合』様という方は、本当に、まだいらっしゃるのですか」 「苗字が『合』さん、は、何人かいるけれど、どれがその人かまでは……。それに大体、今も単身者なのかなあ」 『ああ。『合』は、『清白宮』にいるよ。あいつの気配を、感じたもの』 羅羅が鋭く言った。 「そうですか。……それでは、今から、三人で、『合』様にお会いしに行きましょう」 暎蓮の言に、ほかの二人は驚いた。 『あ、『合』に会わせてくれるのかい?』 羅羅の言葉に、 「そうでなくては、羅羅様もお気が済まないでしょう。そして、奥様を殺された側の『合』様にも、ご言い分はあるかもしれません」 暎蓮は、そう言うと、彪に向かって、 「……彪様、一度『口寄せ』を解いてください。それから、『入らずの布陣』も。『合』様にお会いできたところで、もう一度、羅羅様をお呼びしましょう」 彪は、暎蓮の意外に大胆なところに、ぽかんとしていたが、あわてて、 「う、うん、わかった」 と言い、今度は羅羅に、 「……羅羅さん、それじゃ、いったん俺から離れて」 と言って、口寄せを解いた。羅羅が姿を消す。
「……お姫様、本当に大丈夫なの?」 彪と暎蓮は、彪が両手に『聖気』を集め、羅羅の髪の入った壺からの『邪気』を受けないように持ち、二人そろって『清白宮』まで戻りながら、話した。 「なにがですか?」 彪の問いに、暎蓮が答える。 「羅羅さんと『合』さんを会わせてさ。あの調子じゃ、羅羅さん、その場で『合』さんをとり殺しかねないよ。『合』さんの奥さんをよみがえらせるとかなんとか、物騒なことも言ってたし」 「……羅羅様は、『合』様をお慕いしていたからこそ、お怒りなのでしょう。ですが、奥様を殺された『合』様だって、頭にきていると思います。この二つの『怒り』の力は、相当なもののはず。いっそ、それ同士をぶつけ合い、霧散化させたほうが、却って収まるのが早いかもしれない、と踏んだのですが」 「それは無理じゃない?だって、『合』さんは、恨みの気持ちを持ってはいても、もと『巫覡』で、今は普通の人間なんでしょう。もし恨んでいたとしても、それを『力』に変えるための素質が、もうないはずだよ」 「そうでしょうか」 暎蓮は、城内のあちこちに立っている、石燈籠の前で、立ち止まり、彪を見た。 「羅羅様のお話を聞いた限りでは、『清白宮』の外には、埋められた『合』様の奥様のご遺体があるとのことでした。でも、『仙士』の方に後を託した……すなわち、ご遺体からの『気配』が漏れないように『術』をかけていただいた、とはいっても、それはご遺体が埋められた後のこと。その前、殺された直後に、奥様の魂自体が『恨み』を放ち、その『邪念』で、『合』様に憑りついていたら、どうなると思われますか」 「羅羅さんにじゃなく、『合』さんに?つまり、遺体が埋められる前に、『合』さんは奥さんに憑りつかれて、その奥さんの『邪念』の力で、今はもう、『合』さん自体にも羅羅さんを『呪詛』できる能力があるかもしれないってこと?」 「はい。羅羅様ではなく、『合』様に憑りついたのは、おそらく、『合』様を使った、羅羅様への復讐のため。……ありえなくはない、気がしているのですが」 「そうだなあ。……たとえば、街で、『仙士』を名乗る者は、結構、いかがわしい人たちが多いんだ。大した『術』も使えないのに、お金のためなら、なんでもするような人もいる。……もしかすると、もう『合』さんの奥さんが『合』さんに憑りついた後に、それがわかっていても、羅羅さんにはそのことを言わずに、そのまま遺体を埋めて、その後、遺体の『気配』を消す『術』を行って、羅羅さんからお金をもらったってこともありえるのかもしれない」 彪は、壺を持ったまま、両腕を組んで、そう言った。
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