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作品名:『彪〜Age13〜 お姫様との大冒険1』 『無間邪術』編 作者:淳虎

第14回   第八章 城内の探索と、暎蓮と彪
 彪と暎蓮は、広い城の中で、『怪しい』と踏んだところを、片っ端から歩くことにした。
「……たかが、城の中と思っていましたが。こうして歩いてみると、結構な広さがあるものなのですね」
 暎蓮が、ゆっくりした足取りで、言う。日頃歩き慣れていない彼女には、精いっぱいのスピードなのだろう。
 彪はそんな彼女の歩幅に合わせて歩きながら、
「うん。俺も、『清白宮』から城外に出る時に使う『才明門(さいめいもん)』まで歩く時は、あまりの遠さに、途中で休憩したくなるよ。……だから、貴族や王族の方々はみんな馬車や輿を使って移動するんだよね」
 と言った。
「そういえば、私の父である、『清河大臣』も、我が『雲天宮』に来る時は、いつも馬車を使って門前まで来ていましたが。……城内の各施設がこれほど離れているのでは、無理もないことだったのですね。結婚する前までは、これほど城内が広いとは思っていなかったので、いつも、どうしてわざわざ城の中でまで馬車で移動するのか、疑問に思っていたのです」
 暎蓮の言葉に、
「ああ、……お姫様は、子供のころから結婚するまで、ほとんど『雲天宮』から出たことがなかったって言っていたものね」
 と、彪は答えた。
「そうなのです。『雲天宮』だけでも、私一人には広すぎると思うくらいだったのですが。物心ついてから、城の外に出たことがあった時は、結婚前の扇賢様との旅の時と、彪様と初めてお会いした時の『月沃国(げつよくこく)』への旅、それから、ナイト様のお国であられた、『砂養国(さようこく)』へだけです。ですから、その度に、城の中を見ながら馬車で移動するのも刺激的だったのですが、城外の街は、もっと、刺激的でした」
 暎蓮の感想に、彪はうなずいた。
「そうだろうね。……『雲天宮』は静かだし、『気』も清浄で、きれいな庭も、森も林も大きな池や滝まであるんだものね。それに、裏手にはもっと大きな山もあるし。それが、雑多で、いろんな質の『気』もたくさんある街や、違う風景や様式の、外国へまで行ったりしたら。……驚くのもわかるよ」
「ええ。……本来ならば、あの宮殿内だけが、一生、私の世界じゅうのようなものなはずでしたのにね。これが『天帝』様の『ご意志』であったのでしょうが、……いざ、自分の身の上を振り返ってみると、なんとも不思議なものに思えます」
 暎蓮はそう言って、複雑な表情で、彪に微笑んで見せた。……その彼女の顔を見た彪は、尋ねてみた。
「その『天帝』様の『ご意志』は、お姫様にとっては、苦しいものだったの?」
「いいえ。……苦しくはありません」
 暎蓮は、すぐにはっきりと答えた。
「『天帝』様は、きっと、私にも、『外地』での知識が必要だから、と、あのようなご経験の機会をくださったのだろうとは思います。ですが、私は『雲天宮』だけの世界で過ごして、すでに二十二年も経っています。……そこから突然、外に出されても、『斎姫』としても、そして、『甦 暎蓮』個人としても、なにをどうすればいいのかが、わからなくて」
 彪は、彼女に、一生懸命言った。
「でも、否定的な気持ちじゃないなら、それは、いいことだったんだよ。……扇様と結婚したことで、きっとお姫様の『世界』は、もっと、ずっと広がるもの。お姫様は『斎姫』としても、お姫様自身としてでも、たくさんできることがあるのに違いないよ。だって、あの、扇様と結婚したんだから。……扇様の中には、俺たちがまだ知らないような、『天地界』じゅうのいろいろなことがらが、信じられないほどたくさん、詰まっているんだよ。それを知ることができれば……。……思うんだけど、『外地』には、きっと、お姫様が好きになれるものが、たくさんあるよ。……そりゃあ……嫌いなものもあるだろうとは思うけれど。だけど、いざ、本当に『外地』に出たら、そういうものからは、扇様や王音姐さんやナイトさんに、……俺だって、お姫様のことを、必ず、護るようにするから。……それが、お姫様の周りにいる、俺たちみんなの『使命』でもあるんだと、俺は、思っているよ。それが『天帝』様の『ご意志』で、その結果が、お姫様が、みんなと一緒に旅に出るようになったことなんだよ、きっと」
「……そうですね。これからは、それが普通のことになるのかもしれません。……皆様との旅は、まだこれからも、たくさんあるのでしょうね」
 彪は、うなずいた。
「うん。……ここまでくるのに、時間はかかったかもしれないけど。……お姫様は、これから、きっと、もっと自由になるんだよ。『扇様』っていう大きな『翼』を得てさ。そして、『天地界』じゅうの空を、自分の意志で、自由自在に、飛びつづけるんだ」
「自由に、空を、飛ぶ……」
 暎蓮は、それを想像するように、胸に両手を当て、上を向いて、瞳を伏せた。……そして、やがて、目を開け、言った。
「……ありがとうございます、彪様。……彪様がそうおっしゃってくださると、本当にそうなるように思えます」
 暎蓮は、彪の言葉を聞いて、やっといつものように優しく微笑んでくれた。彪は、ほっとした。
「私の『翼』になってくださる方は、きっと、扇賢様だけではないのでしょうね」
 暎蓮の言葉に、
「え?」
 彪が訊き返すと、
「きっと、彪様も、私が飛ぶお力になってくださる方なのです」
 彪は、真っ赤になった。しかし、それでもなんとか、彼は、言った。
「……お、俺に、なにができるかはわからないけれど、お姫様が『自由に飛ぶ』ためなら。どんなことだって、……手伝うよ」
「ありがとうございます」
 暎蓮は、微笑んだ。優しい手つきで、彼の手に自分の手を添える。
「もし、このお城から出ることがなければ、彪様と出会うことはできなかった……。それを思うと、私は、本当に、彪様に出会え、こうしてご一緒に過ごせることがうれしく、そのことが、……なににも代えられない、とても大切な『宝物』のように思えるのです」
「お姫様……」
 片手を、彼女の優しい力で握られ、彪の胸の鼓動は高まった。
 ……しかし、その時だ。


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