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作品名:眠れ、そして夢見よ 作者:時 貴斗

第47回   新たな夢 七
   七

 翌日、今度は九時ちょうどに青年はやってきた。昨日の夢を青年に見せてやると大いに感心した様子だった。滝田達はベッドルームに行った。青年が眠りについて二時間、滝田は何か暇つぶしをするでもなく、真っ黒な画面を見つめていた。するとモニターに夢が現れた。
 車のフロントガラスにたたきつける暴風雨のように踊り狂う光点達がやっと静まると、対照的に凍ったような月面が映し出された。
 それは、まるで一枚の絵画を見ているかのようだった。漆黒の空に砂糖を一つまみとってさらさらとまいたような星々が鮮やかだ。きっと地球と違って大気がないから、そんなに鮮明に見えるのだろう。地平線の上に、ここではお月様のかわりに青い地球が浮かんでいる。地上には灰色のかまぼこのようなものが放射状にのびている物体がある。それぞれの先端に箱が付いている。あれがたぶん青年が言うところの基地なのだろう。なにやら四角い板が斜めに傾いて縦横にきれいに並んでいるのは太陽電池だろうか。
 未来に行った青年は、それを見晴らしのいい丘に立ってながめている。それは、滝田も見ていることを意識してサービスしてくれているのかもしれない。
 青年は下を向いた。一部緩やかな坂になっている。彼は動き始めた。放射状のかまぼこがだんだんと大きくなってくる。そのうちの一本の端が口を開けていて、中から光が漏れている。
 明かりに吸い寄せられる羽虫のようにその中に入っていく。
 オレンジ色のライトが照らすそこはまるで巨大なトンネルのようだった。アニメに出てきそうな月面走行車が陣取っている。その横を抜けて奥に少し進むとすぐに頑丈そうなドアに道をはばまれた。青年は躊躇することなく進んでいく。扉が目の前に迫ってきた。
 ところがどうだろう。風景は一瞬にして切り替わり、今度は白い明かりが照らす壁も床も真っ白な部屋に出た。青年はドアを開けることなくすり抜けたのだ。
 その狭い空間はいったい何だろう。
 ああ、分かった。外は真空に近い空間だ。人間が出入りする際に、圧力を調整するための場所が必要だ。そこはエアロックなのだ。
 青年は前方の扉もすり抜け、施設内に入りこんだ。外側から見ると半円形の筒だったが、中は四角い通路だった。
 紺色のジャンパーを着て野球帽のような帽子をかぶった二人の男がいて、一人はホースらしきものを片づけ、もう一人は壁のパネルを調べているようだった。
「おい、Aチームの人間が一人まだ戻ってないらしいぞ」
 ホースの方がもう一人に向かって言うと、画面が揺れた。青年は男の言葉に動揺したようだ。
「本当か。おいおいマジかよ。規則違反だぞ」
 パネルの方の男が答えると、青年は突然駆け出した。
 いったいどうしたのだろう。Aチームという言葉に反応したようだが。
 半球形のホールに出た。内壁がにぶく光るその場所はいかにも殺風景だ。取り囲むように扉が並んでいる。どうやらそこから放射状に広がる通路に通じているらしい。風景が左右に動いて、青年は正面から左に数えて二つ目の入り口に走りこんだ。
 音は聞こえているはずだが、静かだ。青年の足音は聞こえない。人気のない不気味な白い通路を走っていく。
 突然騒がしくなった。たくさんのテーブルが並んでいて、大勢の人間がプラスチックのトレーにのったサンドイッチやロールパンを食っている。紺や緑のジャンパーを羽織った男達が食べ物を持って歩き回っている。女性の姿も見える。ここは食堂だ。
 外国人はいないようだ。なるほど。日本基地というわけか。
「地球ではもうすぐ人口爆発が……」
「メンデレーエフ・クレーターじゃ今……」
 様々な声が入り混じって聞こえる。その中から「Aチーム」という単語が聞こえた。風景はその声が聞こえた方向に移動していく。
 頭のてっぺんがはげてその周りからちぢれた白髪をはやした爺さんが、若い背が高い男に向かってしゃべっている。彼らは青年の方には見向きもしない。
「一人まだ帰ってきてないそうだが。Aチームの連中は心配してるけど大丈夫かね」
 若い男が答える。
「タキタさんですよね。何か事故にでもあったんでしょうか」
 これか! 滝田の知っている人物か、全然関係ない人間か分からないが、何かトラブルに巻き込まれているらしい。
 画面が点滅し始めた。なんてことだ。
 爺さんがフランスパンをかじる。
「もう八時間も外に……」
 若い男が答える。
「タンクのエア……大丈夫でしょうか……」
 画面が暗くなって、消えた。
 滝田は、今日の夢はもうおしまいだと思った。だが考え込んでいるうちに、再び画面が明るくなるのに気づいた。砂嵐がおさまった後現れたのは、雨が降り注ぐ滝田睡眠研究所だった。それは、ほんの二秒ほどで消えた。


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