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作品名:眠れ、そして夢見よ 作者:時 貴斗

第22回   古代――現代 一
   古代――現代


   一

 高梨様。これまでに分かったことを報告致します。現在、夢見装置で確認できた倉田氏の夢は四回です。そのうち一回はレム睡眠行動障害の状態での観察に成功しています。最初の二回は、スフィンクス、ピラミッドの断片的な映像でした。三度目は驚くべきことに、見たはずがない我々の研究室の夢を見ました。その映像は実に正確であり、なぜ彼がそんな夢路をたどることができたのかは謎のままです。
 四度目がレム睡眠行動障害の状態でのものであり、彼は夢の中で古代エジプト人達と会話をしております。我々は彼にいくつかの質問をすることに成功しており、その結果、御見葉蔵氏の時と同様、彼が現在古代エジプト人になっていることはほぼ確実と思っています。
 今後の研究はさらに期待の大きいものとなる予定です。

 滝田は電子メールの文章をそこまで打って、しばらく考え込んだ。そして、ウィンドウの×マークにカーソルを合わせ、マウスをクリックした。
 こんな事を高梨医師に報告していいのだろうか、と滝田は思う。学会で発表していい内容だろうか。
 おそらく一笑に付されるだろう。だが、証拠のデータが揃っている。高梨が言った通り、医学の世界だけでなく、科学の世界にも大きな波紋が生じるかもしれない。
 高梨の名誉などというくだらないもののために、どうしてこんな貴重なデータを渡さなければならないのだろう。
 研究費の援助など断ってしまおうか。そのかわり、何の情報も渡さない。おそらくそうはいかないだろう。倉田氏を夢見装置につないでしまった時点で、すでに後戻りできない状態になっていたのだ。いろいろなことを知りすぎてしまった。
 滝田は伸びをした。疲れた。右手で左肩をたたく。
 壁の時計を見るともう十時を過ぎていた。まだ誰か残っているだろうか。
 ふいに、寂しさを感じる。この下では今も車や人が行き交っているだろう。都会は眠らない。
 部屋を見まわす。本棚には様々な論文やら、本やらがぎっしりと詰まっている。楽しむために読むのではない、無味乾燥な資料達。こんなふうにふと、自分がいる環境が寂しいと感じることがある。普段は全く気にしていないのに、何かのはずみに冷静な感覚がゆるんだ時に、長くつきあってきたはずの、学術誌や、パソコンや、カーテンが、ひどくよそよそしく感じられ、部屋の空気が急に冷たくなったように感じるのだ。
 滝田は立ち上がった。みんな帰っただろうか。倉田氏はどうしただろう。所長室を抜け出し、静寂に包まれた廊下を歩く。突き当たりの右手に、夢見装置のある滝田研究室がある。入り口のドアをみつめる。この扉もだいぶ古びてきたなと、滝田は思う。
 ドアをゆっくりと開け、中に入る。誰もいない。美智子も青年も今日は帰ったらしい。明かりがついたままの、誰もいない部屋は、とても不気味に感じられる。もう十年以上もここにいるのに、この気味悪さだけは決して慣れることがない。
 窓の方に行こうとしてモニターの横を通り過ぎた時、なにか、光がうごめいているのが目の隅に入った。振り返ると、モニターは例の白と黒の点がうずまく砂嵐の画面になっていた。


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