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作品名:Gゼロ 作者:織田 久

第8回   8 実家
翌週の土曜日に2人は海翔の実家に行った。咲楽と海翔の母が笑顔で話す。
 「新居はどう?」
 「襖や障子があるんです。昔の家みたいで気に入ってます」
 「あら、今時珍しいわね。見てみたいわ」
 「落ち着いたら、遊びに来てください。ところで、その家に古い雑誌があったんです。恋人同士が楽しそうに飛び跳ねている写真に、Gゼロと商品名が書いてあるんです。昔に見たような気がするんですけど、2人供思い出せなくて」
 「あー、そういうのあったわね。何だったかしら?」
 「Gゼロ、Gゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ。そんな歌があったような・・」
 「そうそう、思い出したわ。ゴキブリの殺虫剤よ。海翔が幼稚園の頃だったわ。すごくよく効く薬でね、ゴキブリがいなくなったのよ」
 「その後からゴキブリはいなくなったんですね」
 「殺虫剤は国が配ったのよ。だから家だけでなく、全国でいなくなったのよ。あの時は渋谷君の家が自治会長で、お母さんが薬を配りながら、ウチの子は私立に行かせると自慢してたのよ。だけど渋谷君は試験に落ちたのよね」
 母がその悔しさを今でも覚えているのを、海翔は驚きながらも可笑しかった。

 その日は海翔の実家に泊まって、日曜日には咲楽の実家に行った。咲楽の母はGゼロを覚えていた。
 「あの時は大変だったのよ。マンションの理事長だったから、私がゴミ置き場に行ったのよ。そしたらサワサワ音がしたの。何だったと思う?ゴキブリよ!いっぱいいると足音が聞こえるのよ。キャーって叫んだわよ。そしたらゴキブリが排水口に入っていったわ。下水道からゴキブリが上がってきてたのよ。Gゼロを足元に置いて逃げてきたの」
 「理事長だからって、そこまでやらなくても・・」
 「だって紙に書いてあったのよ。各家庭は台所などに置くこと。地域の責任者は下水につながる場所にも置くこと」
 「お父さんに頼まなかったの?」
 「お父さんがやる訳ないじゃない。くじ引きで理事長当てといて、休みの日はゴルフか寝ているかよ」

 やはり2人の実家にゴキブリはいなかった。いや、日本中から消えたはずなのだ。それなのに何故2人の新居に現れたのだろう?


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