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作品名:Gゼロ 作者:織田 久

第7回   7 瑕疵
海翔が町役場に行くと立派な応接室に案内された。海翔が驚いていると、見知らぬ老人が現われた。
 「藤本海翔さんですね。私は副町長の永山と申します。藤本さんの件は環境省の松田氏から伺いました。この件につきましては私と町長以外には秘密です。何かありましたら私にご相談ください。今日はどのようなことで?」
 「僕たちは困っているんです。妻はこんな家には住めない、実家に帰ると言い出しています。僕だって気持ち悪くて・・」
 「お気持ちは分かります。私の母や妻はアレが出ると大騒ぎでした。私も若い時のことですが、アレが出てきた時に近くに新聞紙も何もなかったんです。で、咄嗟に手を出したんです。捕まるとは思っていなかんですが、捕まえてしまったんです。するとアレは僕の手の中で臭いにおいを出してね。思い出しても気持ちが悪いですよ」
 「そんなことがあったんですか、信じられません」
 「運動神経が良すぎるのも困ったものです」そう言うと副町長はワハハと笑った。海翔もつられて笑いながら、話を本題に戻した。

 「契約書では住宅に重大な瑕疵があれば、移住契約を解除出来るとありますが」
 「そうです。しかしアレは当方の瑕疵ではありません。あの家は2年間、誰も住んでいなかった、つまりアレの餌は無かったのです。藤本さんが越して来てアレが発生した。それは藤本さんがアレを連れて来たからでしょう」
 「そんな馬鹿な、僕の家にも妻の家にもアレはいませんでした」
 「アレは昼間は隠れているんです。見つからなかっただけでしょう」
 「まさか、20年以上ですよ。20年見つからないのは、いなかったからです」
 「大きな声を出さないで下さい。これは極秘事項ですぞ」
 「すみません、つい興奮して」
 「とにかくですね、あの家にアレがいなかったのは事実です。藤本さんが町側に瑕疵があったと主張するなら、当方は藤本さんが移住用住宅にアレを持ち込み、欠陥住宅にしたとみなします。裁判になったら藤本さんに勝ち目はありませんよ」
 海翔は思わぬ展開に言葉を失った。
 「では、こうしましょう。家賃を半額にします。藤本さんが絶滅危惧種を保護するのを町も応援しましょう」


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