20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Gゼロ 作者:織田 久

第6回   6 珍客
「昨日、お電話した松田です」
 海翔は少し驚いた。松田という人は配送業者だと思っていたが、玄関のモニタに映っていたのはスーツ姿だ。しかも2人いる。
 「私、環境省の自然環境保全基礎調査を行っている者です。こちらは大学教授の南先生です」
 「えっ!どういうことですか?」
 「藤本さんのお宅でゴキブリを発見されたと伺いましたが」
 「そうです。だから殺虫剤を・・」
 南教授が突然話し出した。
 「Gゼロは普通の殺虫剤ではありません。殺虫剤にはいずれ耐性を獲得し、それは遺伝します。私は耐性に関係する遺伝子を見つけたのです。それは性フェロモンに関する遺伝子座にあったのです。その遺伝子の働きを止める薬剤によって、ゴキブリは殺虫剤の耐性を失う。効かなかった殺虫剤が効くようになるのです。同時にゴキブリの雌は性フェロモンを出さず、雄は性フェロモンを感知できなくなる。つまり子孫を残せなくなるのです」

 「さすがです、南先生の業績は素晴らしい。それでゴキブリはほぼ絶滅したのです。ところが藤本さんのお宅に生息していた。我々も驚きました。奇跡です」
 「実験室か昆虫博物館にしかいないと思っていたが、このような自然環境で生き延びていたのは奇跡です」
 「ちょっと待ってください。僕たちは困っているんです。あんな気色の悪い・・」
 「ゴキブリは大昔から人間と供に暮らしてきたのです。森では生きられません。人の家こそゴキブリにとっての自然であり理想的な・・」
 
後ろで聞いていた咲楽が南教授に怒鳴った。
 「いい加減にして下さい。そんなにゴキブリがお好きなら、あなたの家で飼えばいいでしょう」
 「わ、わたしはそれでも良いのですが・・・事情がありまして」
 「私はあんなのと暮らすのは断固拒否します。Gゼロをください。お金は払います」
 「Gゼロは製造中止で使用も禁止です」
 「だったら殺虫剤を買います」
 「奥さん、絶滅危惧種を殺傷すると5年以下の懲役または500万円以下の罰金ですぞ」
 「えっ!」

 「それと、ここにゴキブリが生息していると言うのは差し控えてください。でないとマニアがどっと押しかけてきますよ。許可なしの捕獲も同じ罰則です」
 「私達があれを捕まえるなんて、ありえません」
 「人家で捕獲、採取された場合はですね、過去の判例では住民が協力あるいは黙認したとみなされ、住民も同罪となっています」
 海翔と咲楽は呆然と立ち尽くしていた。
 「台所にカメラをセットしますが、暗い時だけ作動する暗視カメラです。住民の方を映すことはありません」
 松田氏はそう言うと、玄関のドアを開き合図をした。作業服の男が脚立とカメラを抱えて家に入って来た。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16