深夜、咲楽はふと目を覚ました。水を飲もうと台所の電気を点けた。 「きゃぁ〜」咲楽は寝室に駆け戻る。 「海翔!起きて!変な虫が台所にいるの」 明るい台所に虫は見当たらない。どこか暗い所に隠れているのだろうか。 「どんな虫だった?」 「黒光りしていて、サッサッサて素早く逃げてった」 「カブト虫みたいな色?」 「そんな格好良くないわよ。平べったくて気持ち悪いのよ」 「なんだろう?」 海翔が考えていると、咲楽が「明日は」と言いながら時計を見た。そして言葉を続けた。 「違った。今日は出勤日なのよ。私、寝るわ」
咲楽が会社に着くと、海翔からメールが届いた。数枚の写真の中から、咲楽は見つけた。と同時に思い出した。 「あれはゴキブリ。間違いないわ。CM思い出した。Gゼロ、ゴキブリ全滅、ゼロになる」
咲楽の返信を見て、海翔は駅前の薬屋に行った。個人経営の小さな店だ。カウンターにいる初老の男が店主のようだ。 「Gゼロありますか?」 「どうしました・」 「ゴキブリが出たんです」 「ゴキブリ?本当か?」 「見たのは妻なんです。ネットでゴキブリの画像を見て同じだと断言しました」 「Gゼロは?」 「CMを覚えていたんです。Gゼロ、ゴキブリ全滅、ゼロになる」 「あんたがまだ子供の頃だろ、たいした記憶力だな」店主はそう呟くと海翔を見つめた。そして薬を探しもしないで、メモ用紙を出した。「Gゼロの在庫はない。問い合わせるから、住所氏名電話番号を書いて」 商売人らしからぬ不愛想な店主に、海翔は違和感を持ったが、言われるままに記入して店を出た。
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