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作品名:Gゼロ 作者:織田 久

第3回   3 新居
 「ここ、私の部屋にしていい?」
 「押し入れクローゼットがあるのは、この部屋だけだ。咲楽が使いなよ」
 「ただのクローゼットで良くない?」
 「またの名は、襖クローゼット」
 咲楽が笑って言った。
 「襖に障子の和室なのに畳じゃなくて床張り。何故だか判る?」
 「さあ?」
 「田舎のお祖母ちゃんの家と同じなの。布団の上げ下ろしが辛くなってベッドにしたの。その時に床張りにしたのよ」
 「それで蒲団から洋服にした訳だ」
「天袋の掃除して、冬物を仕舞っとくわ」

 海翔は脚立を持ってくると、雑巾で天袋を拭き始めた。と、古びた雑誌を手に降りてきた。
 「ホコリだらけだ」そう言ってゴミ箱に捨てた雑誌に、咲楽が目を向けた。広告だろうか、若い男女が笑顔でジャンプしている。その下にGゼロの文字がある。
 「この写真、どこかで見たような気がするわ」
 海翔は雑誌を拾い上げた。Gゼロの下で背表紙が破れている。広告に違いないが、商品の説明が欠けている。写真を見るうちに幼い頃の記憶がよみがえってきた。
 「幼稚園の頃、宇宙に興味があってさ。宇宙船の中は無重力でGはゼロって知ったんだ。それで2人は宇宙で浮いていると思った。今、考えると変だけど」
 「私も思い出したわ。親戚の伯父さんが痔の手術したのよ。それが大変だったって親が話してたの。その様子から子供なりに、人前で話す事じゃないと思ったのよ。だから誰にも聞かずに、一人で考えたの。幾つもあった痔がゼロになって喜んでいるって」

「2人でまったく違うことを考えたんだ。本当は何だったか覚えてる?」
「判んないわ」そう言いながら、咲楽が考え込んでいる。「動画で見たような気がするの・・・2人がピョンピョン飛び跳ねて・・・」
突然、咲楽が歌い出した。テンポの速い曲だ。「Gゼロ、Gゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ。なんとかかんとかゼロになる」
「そうだよ!CMソングだ」そう叫ぶと海翔も歌い出したが、途中で止めた。「なんとかかんとか、って何だったかな?」
「そこが思いだせないのよ」


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