平日の午後、海翔たちが宝来軒に入ると、客は3人だけだった。席に着いた海翔は書類の入った大きな封筒をテーブルに置いた。2人が食べ終わる頃には、客は海翔たちだけだった。店の女性がその封筒を見て言った。 「役場の書類よね。あなた達、移住して来るの?」 「そうです、当たったんです」咲楽が笑顔で答えた。 「私達もよ、3年前に東京から来たの。あなた達は?」 「私達も東京です」 「当たったの、隣の家でしょ?」 「あっ、はい」 そう返事をすると、女性は厨房に向かって言った。 「パパ、お隣さんよ。移住して来たのよ」
旦那さんが厨房から出てきた。海翔と咲楽が慌てて立ち上がった。 「隣に引っ越して来る、藤本と言います。よろしくお願いします」 「八代です。こちらこそ、よろしく」 「隣と言っても店だけで、住まいは車で10分くらいの町はずれなのよ」 海翔と咲楽は奥さんに笑顔で頷いた。 「お宅の横に空き地があるだろう、そこは店の駐車場なんだ。車の音がうるさいかもしれないけど・・」 「夜の8時までだから、大目に見てね」 「お店を閉めるのが早いんですね」 「この辺の人は早寝早起きなのよ」 「うるさいのは東京で慣れてますし、夜8時は宵の口ですよ」 「お隣さんが東京の人で良かったわ。何か分からないことがあったら、遠慮しないで相談してね」そう言って奥さんが笑った。 咲楽は会話を聞きながら、隣人と仲良くやれそうだと安心した。
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