「当たったよ、咲楽」 「本当!すごい!さすが、海翔は強運の持ち主ね。これで父も母も安心するわ」 「そうだね、僕もほっとしたよ。契約は2週間以内だ」 「水曜は避けて、宝来軒の定休日だから」 「えっ!何で知ってるの?」 「お店に貼ってあったわよ」 「また来る予感でもしたのかい?」 「そんなことないけど、目に入ったのよ」 「他に都合の悪い日は?」 「ないわ」 「判った。決まったら連絡する」
電話を切ると、藤本海翔は町のHPを開いた。 「元根町落合2丁目4番地の移住者用賃貸住宅の申し込みは終了しました。応募者多数のため抽選となります。当選された方には・・・」 もう何度も見た文面を読み返しながら笑みがこぼれる。元根町への移住は人気がある。とくに今回は古民家風だが築22年と比較的新しい。滅多に出ない好物件だ。
現地に下見に行った時を思い出す。駅前広場を囲むように建物が並んでいる。その間を抜けて商店街に入る。目印は宝来軒だ。その隣に物件がある。商店街の古びた看板を見ながら歩く。ゆるく右にカーブする通りの右にあるはずの宝来軒の看板がなかなか見えない。やがて道が左にカーブすると看板が見えた。その隣に古民家風の物件があった。
海翔たちが着くと、すでに先客がいた。しばらく待ったせいで下見が終わると12時を過ぎていた。宝来軒は満席で、外で待ってから席に着く。ラーメンを待つ間に周囲を見渡した。2組の若い2人連れがいる。都会風の服装から下見に来たに違いない。午後1番を狙っているのだろう。思ったよりも申し込み者が多いようだ。 「美味しかったわ、また食べたいな」そう言って、咲楽が笑った。 「わざわざ食べに来るには遠いな」海翔はそう答えた。だが、咲楽は店の定休日を見ていた。強運の持ち主は自分ではなく、咲楽だと海翔は思った。
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