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作品名:セカンドプラネッツの邪馬台国論 作者:織田 久

最終回   7  山は動かない
市長の妻が少し考えている。中江典翔は彼女の言葉を待った。
「吉野ヶ里も有力視されています。邪馬台国の説明の『宮室・楼觀・城柵をおごそかに設け』と合致しています」
「倭国は乱れていた。防御を固めた国は幾つもあったはずだ。吉野ヶ里は発掘した中で最大なだけだ。北九州には2つの富がある。博多港と筑紫平野だ。邪馬台国は交易と稲作を掌握していたはずだ。吉野ヶ里では博多から遠すぎる」
市長の妻が納得しかねる様に首を傾げた。中江典翔は少し考えて、話し出した。

「筑紫平野は九州最大の平野で真ん中を筑後川が流れる。有明海沿岸の幅は33キロもあるが、中央部は7キロほどだ。鼓(つづみ)に似た面白い形だ。鼓のくびれた所に小さな丘がある。丘と筑後川の間は2キロ、丘と北の山との間はもっと狭い。防御に適した地形だ。その丘の手前にあるのが吉野ヶ里だ。北の山を背に、南に面しているのは筑後川右岸の平野を管理するとともに、敵の侵入に備えてのことだ」

「『その南に狗奴国があり、男を王とする。その官に狗古智卑狗がある。女王に属さない』。狗古智卑狗を熊本の菊池郡と関係する説があります」
中江典翔は頷くと、その言葉を引き取った。
「熊本から筑紫平野を攻めるには2つのルートが考えられる。1つは海岸沿いに進み筑後川左岸に出る。もう1つが船で有明海を渡り筑後川右岸に上陸する。有明海に沿った33キロを守るのは不可能だ。そこで吉野ヶ里に城塞を構えたのだ。吉野ヶ里は邪馬台国ではない」

「では邪馬台国はどこにあったと思いますか?」
「遺跡や史料よりも確実なのは地形だ。北九州を支配する適地がある」
そう言って中江典翔は地図を出すと、一点を指さした。
「博多の港から遠からず、南の平野にも近い。東西に山が迫り、北からの攻めにも南からも守り易い。邪馬台国は此処だ」
「そこは大宰府ですか?」
「そうだ。後世に役所として選ばれたのも同じ理由だろう。博多では港に近すぎる、敵に上陸されたら終わりだ」
「そうですか・・・博多はだめですか」
「そうガッカリすることはない。大宰府はワシの素人考えじゃ。中氏家伝には多くの戦いが記されておる。ワシの目は血に穢れた曇った目じゃ」
「人間の歴史は戦いの歴史のようです。平和が訪れるのは戦いの間のつかの間。アスカのおかげでシティ同士の争いは終わりました。でも、この平和はいつまで続くのでしょうか」

突然、モニタに大声が響いた。
「大変だっ、恐れていた事が起こった。船長が殺されたぞ、犯人は市長の息子だ」
中江典翔が慌てて横を向く、誰かに手を振った、何かを指さした。駈け出そうとして、モニタに気づき、向き直って叫んだ。
「後で連絡する」
そして画面から消えた。誰も映っていないモニタの前で市長の妻が呆然と立ちすくんでいる。鹿児島市長が異変を感じて走り寄った。
「どうした?何が起こった?」
「アスカの船長が死んだそうです」
「なにっ!」
「犯人は出雲市長の息子と・・・」
「日本の希望が、失われた・・・」
鹿児島市長とその妻が抱き合ったまま天を仰いだ。


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