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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第7回   第7話        奇襲
 崖の途中に半円の白い物が見える。サルのこしかけだ。そこに1匹のサルが座っている。弓を引き絞って射った、矢が飛んでいく、オスカーが倒れた。驚いてレーザーガンを握って視線を戻す、弓を持ったサルが笑っている。その笑顔がゴチョウに見える。いや、ゴチョウだ。ゴチョウが矢を射った。矢がブーンと轟音をたてて飛んでくる。それが声に聞こえる。「俺たちを箱舟に乗せろ」

「アルフレッド、どうしたんだい?」
「いや、何でもない。ちょっと変な夢を見ただけだ」
 ソフィアの声で目が覚めた。熱いミルクティーを持って外に出る。オリバーが空を見上げていた。その背に声をかけた。
「サルのこしかけ、モンキーライス。何故サルの名が2つもあるんだ?」
「サルというと普通は親近感や滑稽なイメージですけど」
 オリバーの言葉にアルフレッドは思いついた。秘密を守ったままクルーの反応をみよう。
「案外、サルは狂暴で恐ろしいかもしれないぞ」
「そうですね。人と同じくらい狂暴です」

 予想外の答えにアルフレッドは驚くが、昨日のオリバーとスティーブのやり取りを思い出した。
「それは進化論のことか?」
「はい、人とチンパンジーは共通の祖先から別れたので共通点が多いんです」
「そうかな?似ていると思ったことはないけど」
「似ているのは社会構造なんです。チンパンジーはオス社会で成熟したメスが群れを出ます。人間の女性も結婚すると、自分の家を出ますよね。オスは群れの中で順位争いをします。人間の男も会社で出世争いします。メスと女性にも順位はありますけど、オスや男ほど熱心ではない。

チンパンジーが激しく争うのが縄張りです。縄張り争いをする動物は多いけど、殺し合うほど激しいのは珍しい。人間もその性質を受け継いでいます。戦争の原因も侵略や国境紛争が多いでしょう」
「そうすると、君は戦争を肯定するのかい?」
「逆です。戦争を防ぐには、人間は争う動物だと自覚することです。キリスト教に原罪という概念があります。いろんな解釈がありますけど、進化論の解釈はサルの狂暴性を人類が引き継いだことです」

「アルフレッド、ちょっと来て」パイロットのアメリアが叫んだ。
「どうした?」アルフレッドは着陸船の中に戻ると、アメリアが小声で言った。
「あんたを助けてあげたのよ」そして外にいるオリバーを目で示した。「私もさんざん聞かされてうんざりよ」
「そうだったのか」アルフレッドが笑った。
「黙って聞いていると、ダーウィンを否定して、オリバー進化論の講義が始まるのよ」
「ははは、それは助かった」
「報告書は出来ているの?」ソフィアがライフルを持ったまま、通信機をアゴで示した。
「出来ている。あと何分だ?」アルフレッドはそう聞きながら、タブレットからメモリーステックを抜くと通信機に差した。
「5分後よ」アメリアが答えて「あっ」と叫んだ。

 アルフレッドの背後でヒュッ、ブスッと音がした、直後にゴチョウの声が響いた。
「動くな!両手を上げろ!」
 アルフレッドが両手を上げると、足元でゴトッと音がした。そして後ろから何かが倒れてアルフレッドに当たった。
「キャー」アメリアが叫んだ。ソフィアの胸に2本の矢が刺さっている。アルフレッドが抱き起そうとするとゴチョウが叫んだ。
「動くな!短い棒に触るな!それが武器なのは知っているんだぞ」
 3人の男が走りよると、死体とライフルを外に出した。アルフレッドとアメリアが外へ出ると、オリバーが倒れている。
「あとの2人は村で捕まえた、首枷を付けてカンチョウにする。お前もだ」弓を持った男が2人に告げた。
1人残ったゴチョウは通信機に差されたメモリーステックに気付いた。ポケットからメモリーステックを出すと、差し替えた。
「約束の地へ導く神よ、現れたまえ」
 神は現れない、ゴチョウはボタンに触ってみた。だが神は沈黙している。そして気づいた。約束の地へ向かうのは、神が箱舟に乗り移った時だ。ゴチョウは外に出た。

「お前が船を漕ぐ女だな。こっちへ来い」
「違う、私じゃない」
「お前はいつも船にいる。祈りの場で上からの声は女だった。お前の声だ」
 アメリアの膝が震えだした。2人男が左右からアメリアを掴んで機内へ引きずり込む。
「神の箱舟に行け。さもなければ人質の3人を殺す。お前もこうなる」
 ゴチョウが足元の血だまりを指さした。そしてアメリアを操縦席に押し込んだ。仕方ない、ゴチョウの指示に従うしかない。アメリア操縦席に座った。すると冷静さを取り戻した。そして思いついた。母船が見えてゴチョウが油断した時、ゲートを開ける。ゴチョウたちは宇宙へ吸い出されるが、自分にはシートベルトがある。ゲートを閉めるタイミングが良ければ、自分が生き残るチャンスはある。
 アメリアが座り直した。ゴチョウは自分の脅しが効いたと思った。ゴチョウの合図で20人の村人が、大きな荷物を持って乗り込んできた。
「人も荷物も多すぎる。重くて船は飛べないわ」
「うるさい、いいから出せ」
「この船は雲より高く飛ぶんだ。重すぎると雲の上から落ちるんだよ。ルーカスは屋根から落ちて骨が折れた。雲から落ちると手も足も取れてバラバラになるんだ。そうなっても良いのかい?」
「誰か降りろ」「俺は降りないぞ」「私も嫌よ」村人が騒ぐと、ゴチョウが叫んだ。
「約束の地は豊かな所だ。川には魚があふれ、野原には鹿の群れがいる、木には果物が実っている」
 村人は喜ぶと、荷物を外に捨てた。
「船を出せ」ゴチョウが大きな声で言った。機内の20人が「神の御許に、約束の地へ」と叫んだ。
アメリアはエンジンを始動した。


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