20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第6回   第6話        煤の層
前の惑星では着陸船を失いそうだった。艦長はパイロットと護衛1名は着陸船に留まれと命令した。男女2人が狭い機内にカンヅメだ。パイロットのアメリアは護衛を、オリバーからソフィアに変えるよう要望した。アルフレッドは了承した。オリバーも護衛役から解放されて喜んでいる。
 アルフレッドはサルが気になった。この星にもサルがいるなら、気候の良いあの惑星の方がましだ。しかし、今のところはサルの痕跡しかない。アルフレッドはジョージの調査の続行を決めた。ジョージとハロルドは北の草原、アルフレッドとオリバーは南の水田、煤の積もった範囲の調査だ。煤が村内だけなら通常爆弾、広範囲なら核爆弾の可能性がある。惑星移住とは無関係なことだが、アルフレッドは重要なことだと思った。

 アルフレッドたちがスコップを手に水田に向かう。オリバーは久しぶりの外出で少し浮かれている。
「僕はオペレーターに感謝しているんだ。だってこの星を発見したからね」
「おいおい、それは天文班の仕事だろ」
「仲間が11人も死んだんだ。観測どころじゃない。ただし自動観測装置は動かしていた、そのデータを解析したんだろ?」
「僕はしていない。誰だろう?」
「オペレーターは何人もいるからな」
「僕は報告を受けていないが」
「あの時は忙しかっただろう。デュアル・チャージ・システム故障、地球は凍結、交信不通。それで報告を忘れたのさ」
「そうだな」
「水田まで近いのか?」
「もう少し先だ」
「そうか、こんな話して良いのか・・・いや、止めとくか」
「何の話だ?」
「アルフレッドはこのミッションのリーダーだ。だから話すけど、皆には秘密にしてくれ」
「リーダーとして秘密は守るが、ちゃんとした内容だろうな」
「もちろんだ。今回のメンバーのことだけど・・・惑星探査は終了した、つまり僕はお払い箱さ。ハロルドも同じだ。ジョージの循環システムも不要になった。そして艦長はソフィアを嫌っている。僕たち4人は母船から追い出された。ただし、君とアメリアはこのミッションに必要だから選ばれた。こんな考えが良くないのは判っている。だけど・・・僕の言う事が間違っているかい?」

 アルフレッドには思い当たる節があった。サルの秘密だ。そしてアメリアは艦長の命令に背いた。
「オリバー、君の言うことは間違えていないと思う。ただ見方が一面的だ、もう少し前向きに考えよう。君は優れた天文学者だ。惑星移住計画で君は立派な業績を残した。艦長もそれを知っているし評価している。そういう面も考えて欲しいな」
「ありがとうアルフレッド、君は立派なリーダーだ。君が艦長なら良かったよ」
 オリバーの機嫌は直ったが、アルフレッドは心に棘が刺さったままだった。

「草原と山にも煤の層があった。炭化した木片が出たのは、広場から1キロ以上の地点だ」
 ジョージが報告すると、アルフレッドの顔がこわばった。
「こっちも同じだ。どう判断する?」
 アルフレッドと目が合って、ハロルドが答えた。
「大火災と大爆発、そして爆心地に遺留物がない。それは高温で蒸発した・・・」
「核爆弾か」アルフレッドが呟くとジョージとハロルドが頷いた。
「これは重要な問題だと思う。だが、我々の移住計画とは無関係だ。そして推測でしかない」
 アルフレッドは、艦長に爆弾のことを報告するのをためらった。ジョージとハロルドは、残り時間が少ないことを危惧した。
「酸素がやばくなる。11名減ったうえに、ここに6名いる。母船にいるのは21名だ。循環システムがもうすぐ破綻する」
「もうすぐワープエネルギーが貯まる。艦長はどっちの惑星を選ぶつもりだろう?」

アルフレッドはこの星に気が乗らない。気候も良くないが、それよりも大きな理由はゴチョウだ。彼の笑顔に隠された押しの強さ、異様な信仰。我々の隣人にふさわしくない人物だ。ジョージの報告では、ゴチョウとは異なる村人がいる。その人物に会ってみようと考えた。

アルフレッドはオリバーと共に村はずれへ向かった。畑にいたスティーブはアルフレッドを見ると言った。
「昨日の男たちの仲間じゃな、今日は何の用で来たんじゃ?」
「あなたから村のことを聞きたくて来ました」
「今日は芋を掘らんのか、まぁ良いわ。何なりと聞くがよい」
「ルーカスが死んだのを知っていますか?」
「屋根から落ちて死んだ、と聞いたわい」
「足の骨を折っただけでした。それだけで死んだのは何故ですか?」
「ルーカスは死期を悟ったんじゃろ」
「生きようという気持ち、生き甲斐があれば簡単には死ねないと思いますが」
「生き甲斐?ワシ等は考えた事はないのう。おぬしの生き甲斐は何じゃ?」
 アルフレッドは自分の言葉の答えに窮した。スティーブはオリバーに目を転じた。オリバーも困惑したが挑発的なスティーブの視線に意を決した。
「僕は進化論・・・生き物が必要にせまられて身体を変えていく、それに夢中でした」
「ほぉ、変わったことしておったのう。とんと、想像もつかんわい」
「本を読んで、考えて、議論して、独自の理論を構築するんです」
「ここで、やって見せてくれんかのう」
「見せると言っても・・・僕は止めたんです」
「どうして止めたんじゃ、好きだったんじゃろ?」
「宇宙船に乗るために天文学に変えたんです」
「さてさて不思議なことじゃ。生き甲斐があれば死なないとは、それを失えば死ぬという事じゃろ」

 アルフレッドが会話に割り込んだ。
「いや、そういう意味ではありません」
「ワシには、そう聞こえたがのう」
 話がかみ合わない。アルフレッドは質問を変えた。
「あなたは死ぬのは怖くないのですか?」
「死ぬのは怖いが、人はいずれ死ぬ。それを拒否できないなら、受け入れるしかないじゃろ」
「そうですが、ルーカスは早く死に過ぎた」
「あいつは死に時を悟ったんじゃ」

 この男はゴチョウよりも面倒だとアルフレッドは思った。それを感じ取ったのかスティーブが言った。
「他に聞くことがなければ、ワシは帰るとするかのう」
「待って下さい。あなたは約束の地には行かない、と聞きました。何故ですか?」
「初代のスティーブが決めたんじゃ。ワシ等はそれを守っておる」
「ゴチョウは行くと決めていますが」
「初代のゴチョウがそう決めたんじゃろ」
「神の箱舟は悪魔に乗っ取られた、とゴチョウは言ってますが?」
「ワシ等は神を信じないが、悪魔は信じちょる、不信心の一族じゃ。さて、ワシは帰るぞ。そうじゃ、おぬしもサルのこしかけを見ていくか?」
「ぜひ、見せて下さい」
「あれはワシの家の名物なんじゃ。おう、ワシにも生き甲斐があったぞ。名物を人に見せることじゃ、わはは」

 母船ではこの日も艦長を囲んで、定例会議が開かれた。
「サルのこしかけとは何だ?」
「昨日の報告にモンキーライスもあった。この星にはサルがいるのか?」
 艦長は動揺した。狂暴なサルがこの星にもいるのだろうか。
「私はこの星で暮らすのは気が進まんな」
「僕も艦長に賛成です。狂信者と共に暮らすのは嫌です」
「ゴチョウは聖書をでたらめに引用している、ソドムとゴモラとか」
「この星は高温多湿だ。イギリスの気候と違い過ぎる」
「諸君の考えは分かった。ワープ出来るのは明日だ。明日の報告の後で決定しよう」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 283