前の惑星では着陸船を失いそうだった。艦長はパイロットと護衛1名は着陸船に留まれと命令した。男女2人が狭い機内にカンヅメだ。パイロットのアメリアは護衛を、オリバーからソフィアに変えるよう要望した。アルフレッドは了承した。オリバーも護衛役から解放されて喜んでいる。 アルフレッドはサルが気になった。この星にもサルがいるなら、気候の良いあの惑星の方がましだ。しかし、今のところはサルの痕跡しかない。アルフレッドはジョージの調査の続行を決めた。ジョージとハロルドは北の草原、アルフレッドとオリバーは南の水田、煤の積もった範囲の調査だ。煤が村内だけなら通常爆弾、広範囲なら核爆弾の可能性がある。惑星移住とは無関係なことだが、アルフレッドは重要なことだと思った。
アルフレッドたちがスコップを手に水田に向かう。オリバーは久しぶりの外出で少し浮かれている。 「僕はオペレーターに感謝しているんだ。だってこの星を発見したからね」 「おいおい、それは天文班の仕事だろ」 「仲間が11人も死んだんだ。観測どころじゃない。ただし自動観測装置は動かしていた、そのデータを解析したんだろ?」 「僕はしていない。誰だろう?」 「オペレーターは何人もいるからな」 「僕は報告を受けていないが」 「あの時は忙しかっただろう。デュアル・チャージ・システム故障、地球は凍結、交信不通。それで報告を忘れたのさ」 「そうだな」 「水田まで近いのか?」 「もう少し先だ」 「そうか、こんな話して良いのか・・・いや、止めとくか」 「何の話だ?」 「アルフレッドはこのミッションのリーダーだ。だから話すけど、皆には秘密にしてくれ」 「リーダーとして秘密は守るが、ちゃんとした内容だろうな」 「もちろんだ。今回のメンバーのことだけど・・・惑星探査は終了した、つまり僕はお払い箱さ。ハロルドも同じだ。ジョージの循環システムも不要になった。そして艦長はソフィアを嫌っている。僕たち4人は母船から追い出された。ただし、君とアメリアはこのミッションに必要だから選ばれた。こんな考えが良くないのは判っている。だけど・・・僕の言う事が間違っているかい?」
アルフレッドには思い当たる節があった。サルの秘密だ。そしてアメリアは艦長の命令に背いた。 「オリバー、君の言うことは間違えていないと思う。ただ見方が一面的だ、もう少し前向きに考えよう。君は優れた天文学者だ。惑星移住計画で君は立派な業績を残した。艦長もそれを知っているし評価している。そういう面も考えて欲しいな」 「ありがとうアルフレッド、君は立派なリーダーだ。君が艦長なら良かったよ」 オリバーの機嫌は直ったが、アルフレッドは心に棘が刺さったままだった。
「草原と山にも煤の層があった。炭化した木片が出たのは、広場から1キロ以上の地点だ」 ジョージが報告すると、アルフレッドの顔がこわばった。 「こっちも同じだ。どう判断する?」 アルフレッドと目が合って、ハロルドが答えた。 「大火災と大爆発、そして爆心地に遺留物がない。それは高温で蒸発した・・・」 「核爆弾か」アルフレッドが呟くとジョージとハロルドが頷いた。 「これは重要な問題だと思う。だが、我々の移住計画とは無関係だ。そして推測でしかない」 アルフレッドは、艦長に爆弾のことを報告するのをためらった。ジョージとハロルドは、残り時間が少ないことを危惧した。 「酸素がやばくなる。11名減ったうえに、ここに6名いる。母船にいるのは21名だ。循環システムがもうすぐ破綻する」 「もうすぐワープエネルギーが貯まる。艦長はどっちの惑星を選ぶつもりだろう?」
アルフレッドはこの星に気が乗らない。気候も良くないが、それよりも大きな理由はゴチョウだ。彼の笑顔に隠された押しの強さ、異様な信仰。我々の隣人にふさわしくない人物だ。ジョージの報告では、ゴチョウとは異なる村人がいる。その人物に会ってみようと考えた。
アルフレッドはオリバーと共に村はずれへ向かった。畑にいたスティーブはアルフレッドを見ると言った。 「昨日の男たちの仲間じゃな、今日は何の用で来たんじゃ?」 「あなたから村のことを聞きたくて来ました」 「今日は芋を掘らんのか、まぁ良いわ。何なりと聞くがよい」 「ルーカスが死んだのを知っていますか?」 「屋根から落ちて死んだ、と聞いたわい」 「足の骨を折っただけでした。それだけで死んだのは何故ですか?」 「ルーカスは死期を悟ったんじゃろ」 「生きようという気持ち、生き甲斐があれば簡単には死ねないと思いますが」 「生き甲斐?ワシ等は考えた事はないのう。おぬしの生き甲斐は何じゃ?」 アルフレッドは自分の言葉の答えに窮した。スティーブはオリバーに目を転じた。オリバーも困惑したが挑発的なスティーブの視線に意を決した。 「僕は進化論・・・生き物が必要にせまられて身体を変えていく、それに夢中でした」 「ほぉ、変わったことしておったのう。とんと、想像もつかんわい」 「本を読んで、考えて、議論して、独自の理論を構築するんです」 「ここで、やって見せてくれんかのう」 「見せると言っても・・・僕は止めたんです」 「どうして止めたんじゃ、好きだったんじゃろ?」 「宇宙船に乗るために天文学に変えたんです」 「さてさて不思議なことじゃ。生き甲斐があれば死なないとは、それを失えば死ぬという事じゃろ」
アルフレッドが会話に割り込んだ。 「いや、そういう意味ではありません」 「ワシには、そう聞こえたがのう」 話がかみ合わない。アルフレッドは質問を変えた。 「あなたは死ぬのは怖くないのですか?」 「死ぬのは怖いが、人はいずれ死ぬ。それを拒否できないなら、受け入れるしかないじゃろ」 「そうですが、ルーカスは早く死に過ぎた」 「あいつは死に時を悟ったんじゃ」
この男はゴチョウよりも面倒だとアルフレッドは思った。それを感じ取ったのかスティーブが言った。 「他に聞くことがなければ、ワシは帰るとするかのう」 「待って下さい。あなたは約束の地には行かない、と聞きました。何故ですか?」 「初代のスティーブが決めたんじゃ。ワシ等はそれを守っておる」 「ゴチョウは行くと決めていますが」 「初代のゴチョウがそう決めたんじゃろ」 「神の箱舟は悪魔に乗っ取られた、とゴチョウは言ってますが?」 「ワシ等は神を信じないが、悪魔は信じちょる、不信心の一族じゃ。さて、ワシは帰るぞ。そうじゃ、おぬしもサルのこしかけを見ていくか?」 「ぜひ、見せて下さい」 「あれはワシの家の名物なんじゃ。おう、ワシにも生き甲斐があったぞ。名物を人に見せることじゃ、わはは」
母船ではこの日も艦長を囲んで、定例会議が開かれた。 「サルのこしかけとは何だ?」 「昨日の報告にモンキーライスもあった。この星にはサルがいるのか?」 艦長は動揺した。狂暴なサルがこの星にもいるのだろうか。 「私はこの星で暮らすのは気が進まんな」 「僕も艦長に賛成です。狂信者と共に暮らすのは嫌です」 「ゴチョウは聖書をでたらめに引用している、ソドムとゴモラとか」 「この星は高温多湿だ。イギリスの気候と違い過ぎる」 「諸君の考えは分かった。ワープ出来るのは明日だ。明日の報告の後で決定しよう」
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