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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第5回   第5話        サル
着陸船の中でジョージが報告する。モニタには黄色の画面に青い線が映っている。
「自生している米が気になって、母船に調査を依頼した。レーダーの波長を変えて2つの画像を撮った。最初のは植物の生長を示している。中央の青い帯状は成長不良の場所だ。その両側にも細い青線が見えて、整然と区画されている。
そこに次の画面を重ねる。赤い点がイネ科植物だ。見ての通り、区画の中だけにある。これを基に現地調査をした結果、青い所は昔の道だった。土が固くて草の育ちが悪い。そして区画は水田の遺構だった」
「この空域は日本だと推測された。米を食うのも日本だ。日本がこの星を発見した。その知らせを受けアメリカが合流したのか?」
「ゴチョウによればアメリカはこの星に2発の神の雷を落とした。そして隣の惑星に行った。ゴチョウが正しければアメリカは日本を攻撃した」
「アメリカが何故、日本を攻撃する?」
「ここにも狂暴な原住民がいて、救助を呼んだのかもしれない」
「いや、原住民がいれば水田を作れなかっただろう」
「日本はここに定住した後で、宇宙人が攻めてきた。地球に救助を呼び、日本は隣の惑星に逃げた」
「アメリカも隣の惑星に行ったが、日本もアメリカも負けた。アメリカだけがこの星に逃げてきた」
「その宇宙人に僕たちもやられたが、武器は弓矢だった。宇宙船を持っていたとは考えられない」

「もう、いいよ。やめな。あんたらの話は空想みたいなもんだよ。もっと詳しく調べてから議論しようよ」
「ソフィアの言う通りだ。状況は混とんとしている。細かい事でも念のため報告してくれ。今日はもう寝よう」
 アルフレッドの言葉に皆が寝支度を始めた。ジョージが毛布を運びながら、思い出したように言った。
「そういえば、あの米はワイルドライスと呼ぶそうだ。別名はモンキーライスだとさ」
「そうか」アルフレッドは平静を装って小声で答えた。彼の脳裏にビデオに映ったサルの顔が浮かんだ。

 翌日、ジョージはスコップを両手にぶら下げて着陸船から出てきた。
「今日は良い天気だ。こういう日は宝探しがしたくなるだろう」
「素直に手伝ってくれ、と言えないのか」ハロルドが笑ってスコップを受け取った。「何を掘るんだ?」
「ゴチョウの話ではアメリカ隊は爆弾を落とした。その痕跡を探す」
「ソドムとゴモラか・・・彼の話を本気にしているのか」
「他に手掛かりはない。昨夜は水田の画像を見せたが、村も映した。それを調べた結果、この広場が昔の町の中心だと思う」
「宝物は不発弾か?」
「何が出てくるか分からない。ゴチョウの許可は取った」

 2人であちこち掘るが何も出てこない。ジョージは場所を変えることにした。村人の家の裏に小さな畑がある。そこを掘らせてもらうが何もでてこない。ジョージは考え込むと、どんどん歩き出した。村から離れた所に家があった。
「この畑の隅っこを掘っても良いですか?」
「かまわんよ、どんどん掘ってくれ」
 ハロルドがスコップを入れると、カチッと音がする。土の中から陶器の欠片を拾いあげた。ジョージが興奮して言った。
「黒く変色しているのは焦げた跡だ」
「爆弾ではなく、火事かもしれない」
「そうだな、もっと証拠を集めよう」
 ジョージが張り切って掘ると、茶色い物が出て来た。すると農夫が言った。
「掘った芋は横に並べておくんじゃ」

 ハロルドはどんどん芋を掘る。ジョージがその後を探す。掘り進んだハロルドが立ち上がって腰を伸ばして言った。
「考えたら、芋を掘るのは幼稚園以来だ」
「どうりで、楽しそうに掘ってると思ったよ」
「夢中なのは君の方だろう」
「出てきたのは、最初の1個だけだ」そう答えると、ジョージは農夫に聞いた。「陶器の欠片を拾ったことがありますか?」
「ご先祖様の時代から捨てておるわい」
農夫の指さす先、畑の隅に小石と欠片の山があった。ジョージは持っていた欠片を山の上に乗せると農夫に聞いた。
「燃えさしの木切れは畑から出ませんか?」
「ご先祖様が拾って薪にしたじゃろ。そしてな、燃えた灰や炭は畑に撒くんじゃ。土が良くなるでな」
農夫が畑を振り返って言った。
「たくさん掘ったのう。腹も減ったじゃろう。芋を蒸かすでな、食ってけ」
 農夫の後を歩きながら、ハロルドがジョージに小声で言った。
「畑を掘ったのは間違いだったな。遺留物は処分されている」
「そうだな。でも、それで分かった事がる」
「結果オーライだな」そう言ってハロルドが笑った。

「芋を蒸かす間に、面白いものを見に行かんかね」
 農夫に誘われて近くの丘へ向かった。そこの崖に何かが引っかかっている。
「あんた等の好きな陶器じゃよ」
 見上げると、崖に皿が刺さっている。
「サルのこしかけ、と言われておるがのう、どういう意味か分からんわい」
 ジョージが皿に目を凝らした、そして皿を背にすると遠くを見つめた。

 芋を食いながらジョージが農夫に訊いた。
「この家だけ村から離れていますね」
「ワシ等の一族は村の連中と、ちと違うでな」
 2人が返事を迷っていると、農夫が喋りだした。
「ワシの名はスティーブじゃ。代々引き継いできた名じゃ」
「この村では誰もが名を引き継ぐのですか?」
「ゴチョウは村を治める一族、ワシ等は不信心の一族。継がれる名は、2つだけじゃ」
「村の主は世襲なんですね」
「ワシ等の不信心は家訓じゃでな、守らねばいかん」そう言ってスティーブは寂しげに笑うと言葉を続けた。
「ワシ等は約束の地に行きたいとは思わん。ここで静かに暮らすのが一番じゃ。そう思っておる村人もおるがのう、ゴチョウが強引なもんで、誰もそれは口には出さん。祈りの場に行かんのもワシ等だけじゃ」
 2人が芋を食い終わると、スティーブが言った。
「さてさて、お客人につまらん話をしてしもうた。年寄りの独り言と聞き流してくれんかのう」
 2人は礼を言ってスティーブの家を出た。

 広場に戻ると、掘った穴がそのままだった。
「危ないから埋めよう」
「その前に確認したいことがある」
 ジョージはスコップで穴の側面を丁寧に削った。その断面を見つめて言った。
「地面から3センチ下に黒い筋が見えるだろう」
「よく見つけたな。この細い線は何だ?」
「煤に見えないか?」
「火災の跡か、試料を採取しておこう。母船に戻ったら分析する」
「他の穴も調べよう」
 全ての穴に同じ黒筋が見つかった。ハロルドの疑問にジョージが答える。
「これが煤なら火災の跡だ。火事なら炭化した木材が出るはずだが、遺留物は無かった。村の畑に陶器は無かった。それが出たのは村の外だ。村にあったはずの陶器が外に飛ばされた、あの皿は飛んできて崖に刺さった。その方向は村の中心だ。爆発は大きかったし、火災も大規模だったようだが、問題なのはその規模だ」
「燃えカスがないのに煤はある。どういうことだ?」
「可能性は2つある。ここには家がなかった、他で燃えた煤が積もった」
「だが、君はここに家があったと思っている」
「ここは川と水田に挟まれた土地だ。住民100人の今は土地に余裕がある。ところで水田の遺構は広かった。300人以上は養える米が採れたはずだ」
「つまり、家が密集していた。だからさっきの仮説は成立しない」
「もう1つの説は、家は完全に燃え尽きた。それはただの火事ではない」
「煤も残らない高温だったかもしれないな。『他で燃えた煤が積もった』のだろう」
「さすが、ハロルドだ。僕のセリフを取られた」
「相当な破壊力の爆弾だ」
「問題なのは煤の層がどこまで広がっているかだ
「もし、ここがソドムなら、どこかにゴモラもあるはずだ」


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